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「じゃあ、結奈ちゃんは公園内か、その周辺でいなくなった可能性が高いんですね」
「あぁ。だが、どこのカメラにも結奈の姿は映っていない。目撃証言もなく、それ以降の足取りが全く掴めない」
お手上げだと言うように、龍一郎がため息をつく。
幸人は連続神隠し事件と呼ばれるこの事件の、被害者たちの共通点として龍之介が言っていたことを思い出した。
現時点で、この事件の被害者は三人。
全員が煙のように消えており、捜査は難航している。
「あの、龍之介さんが被害者の三人は同じ地区に住んでるって言ってたんですけど、どこでいなくなったとかって分かりますか?」
「確か……あった、これだ」
龍一郎がスマートフォンの画面を見せた。
そこには周辺の地図と、三つの赤い点が表示されている。
「この赤い点が、最後に被害者が目撃された場所だ。ここが結奈のいなくなった公園、他の被害者はここと、ここで消えている」
「なるほどぉ」
一見して、失踪場所に共通点はないように思える。
公園、住宅街、スーパーの駐車場とバラバラだ。
「他の被害者の年齢は?」
「五十代男性、二十代女性だ」
「子どもを狙ってるわけじゃないんですね」
幸人がペンの頭を唇に押し当て、難しい顔で唸る。
まさに無差別神隠しだ。
今の情報だけでは、犯人の正体や目的までは絞ることが出来ない。
(この家にも不審な痕跡はないし、公園に行ってみるしかないかなぁ……)
親による子殺しの可能性も考えてはいたが、真美と龍一郎の反応を見る限り、それはあり得ないと分かる。
それに、結奈の霊が見当たらないということは、とりあえずはまだ生きているのかもしれない。
「分かりました、ありがとうございます」
「もういいのか?」
「はい、あとは足で稼ぎます」
ドラマに登場する刑事のようなことを言って、幸人がやる気満々に立ち上がる。
「あ、そうだ。地図だけ龍之介さんに送っておいてくれませんか?」
「安心しろ、とっくの昔に共有済みだ」
次いで立ち上がった龍之介が、ちらりとスマートフォンをポケットから出してみせた。
結奈の捜索は、組全体で人員を割いて行われている。
新しい情報は、逐一共有される仕組みだ。
「新しく何か分かったら、兄貴にも連絡すっから。ま、期待して待ってくれ」
「……龍之介」
「ん?」
「この混乱に乗じて、筧の連中が怪しい動きをしている。お前も気をつけろよ」
神妙な面持ちで言う龍一郎に、龍之介が勝ち気な笑みを浮かべてみせる。
「了解。忠告、有り難く頂戴しとくぜ」
それだけ言って、龍之介は幸人を連れて部屋を出た。
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