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「あの爺さんが見た"妙なもの"ってのはなんだと思う?」
「聞いた限りでは悪霊か呪い、あとは零落神っすかねぇ」
公園へと向かう道すがら、龍之介は幸人に尋ねた。
小学生の下校時間が近いのか、ところどころで見守り活動をする保護者やボランティアの姿が目立つ。
神隠し事件を受けて、地域の大人たちも警戒しているのだろう。
「零落?」
「簡単に言っちゃえば落ちぶれるって意味です。人間に祀ってもらえなくなった水神が零落すると河童になるとか、山神が零落すると一つ目小僧になるって感じっすね」
「神が落ちぶれると妖怪になるのか……」
河童も一つ目小僧も、妖怪の代表格と言っていいほど有名な存在だ。
そんな妖怪たちが元は神であったとは露ほども知らず、龍之介が感心したような声を出す。
「俺も直接確かめたわけじゃないんで、どこまで正しいかは分からないんですけどね」
そう言って、幸人が苦笑いをした。
「その零落した神って奴は倒せんのか?」
「完全に妖怪になっちゃってるんなら出来ます。でも堕ちきってないんなら、神殺しは重罪なんで無理です。話し合いが出来そうなら話し合いで解決して、ダメそうなら封印します」
「なんだ、俺はてっきり破ぁ! で片付けんのかと思ってたんだが」
「そんなに簡単に祓えたら、今頃祓い屋なんて職業はみんな廃業してますよ」
何かを放つような仕草をした龍之介を見て、幸人がため息をつく。
そんなに簡単に祓えるのなら、この世に幽霊だの妖怪だのはきっと残らない。
誰かが死んだそばから狩り尽くされて、早々に絶滅するのがオチだ。
霊能力者の仕事もきっと激減する。
「とにかく、公園で何か分かればいいんですけど……」
結奈をさらったものの正体が分かれば、それは大きな一歩となる。
調査や対策もしやすくなるし、今後の再発防止策だって考えられるかもしれない。
グッと拳を握って意気込む幸人とそれを見守る龍之介の隣を、ランドセルを背負った子どもたちが列をなして通る。集団下校だろう。
こんにちはと元気よく挨拶されて、二人も和かに返事をしながら、横断歩道を渡った。
「ここだな」
龍之介が足を止めたのは、公園の入り口だった。
滑り台、ジャングルジム、ブランコ。
様々な遊具と、追いかけっこも十分に出来るだけの広いスペースがある。
「なんか、思ってたよりも立派な公園ですね」
「そうだな。いつもならもっと子どもがいるんだろうが……」
事件前なら、今時分は子どもたちで溢れかえっていた頃だろう。
しかし、目の前の公園で遊んでいる子どもは一人も見当たらず、しんと静まり返ってどこか物悲しい雰囲気を漂わせている。
子どもたちから目撃証言を得るのは難しいと判断して、龍之介が困ったように後ろ頭をかいた。
「しょうがないですよ、あんな事件があったんだし」
公園内で女の子が行方不明になったと聞けば、親なら警戒するものだろう。
あそこで遊んじゃダメ、なんて言い聞かせている家庭も多いのかもしれない。
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