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「結奈ちゃんは、十八時までここで遊んでたんすよね」  公園内に足を踏み入れると、幸人は何かを探しだす。  植え込みの植物を一つ一つ念入りにチェックし、順番に遊具に触れては難しい顔をしてうーんと唸る。 「ユキ、何してんだ?」 「オバケとか、木霊みたいな……話を聞けそうな人がいないかなって」  ベンチの背もたれに触れて、幸人が目蓋を閉じた。  龍之介の目から見ても、この公園内に幽霊はいないように見える。  犯人は現場に戻るなんて言葉もあることから、結奈をさらった異形がいるのではないか、と少しばかり期待していたのだが……。  そう上手くことは運ばないようだ。 「手がかりはなさそうか……」 「まだ分かりませんよ?」  ため息混じりに呟いた龍之介に笑いかけると、幸人は公園の真ん中に立つポール時計の元へと向かった。  子どもの遊びに巻き込まれたのだろうか?  背の高い古びたポール時計は、ところどころ銀色の塗装が剥がれ落ちて錆が目立ち、根元付近に凹みや傷がある。 「この人なら、事件を見てるかも」 「幽霊か?」 「どっちかっていうと付喪神です。まだ若いけど、多分目覚めてるんじゃないかな?」  幸人がポール時計を撫でながら、霊的気配を探る。  まだ付喪神と化してから日が浅く、力は弱そうだ。  だが、呼び出して話を聞くぶんには問題ないだろう。 「人間嫌いじゃなきゃいいんだけど……」  ボールを当てられたり、石やコインで引っ掻かれたり、シールを貼られたり。  このポール時計が、公園に遊びに来る人々のしたことに腹を立てていないことを祈る。  人間なんて碌なもんじゃないと協力を拒否されたら、その時は菓子折りの一つでも手に説得をしなければならない。 「とりあえず、呼び出してみます。龍之介さんはちょっと下がっててください」  言われるまま、龍之介が数歩下がった。  幸人はポール時計に意識を集中させながら深呼吸を何度か繰り返し、二礼してからパンパンと二度柏手を打つ。  そして、鋭く息を吸った。 「(これ)神床(かむどこ)()します、掛けまくも(かしこ)時守(ときまもり)の神の大前を拝み奉りて、(かしこ)み恐み(もう)さく」  無人の公園内に、腹の底から発された声が響く。  犬の散歩をしていた老婆が、通りすがりに訝しげな視線を二人へ向けた。 「御身の眼間(まなかい)で起きし先の神隠しにつきて、知れることを教へ給へと恐み恐み白す」  祝詞を唱え終え、公園内に再び静寂が戻ってくる。  何が現れるのかと固唾を飲んで見守っていた龍之介だが、しばらく待ってもなんの変化も起こらない。 「……ユキ?」  心配になって幸人へ声をかけた時だった。  目の前のポール時計がわずかに揺らいだように見え、龍之介は瞬きを繰り返す。 「嗚呼、ようやく……」  そして、二人の耳に澄んだ女の声が届いた。

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