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◇
「結奈ちゃんは、十八時までここで遊んでたんすよね」
公園内に足を踏み入れると、幸人は何かを探しだす。
植え込みの植物を一つ一つ念入りにチェックし、順番に遊具に触れては難しい顔をしてうーんと唸る。
「ユキ、何してんだ?」
「オバケとか、木霊みたいな……話を聞けそうな人がいないかなって」
ベンチの背もたれに触れて、幸人が目蓋を閉じた。
龍之介の目から見ても、この公園内に幽霊はいないように見える。
犯人は現場に戻るなんて言葉もあることから、結奈をさらった異形がいるのではないか、と少しばかり期待していたのだが……。
そう上手くことは運ばないようだ。
「手がかりはなさそうか……」
「まだ分かりませんよ?」
ため息混じりに呟いた龍之介に笑いかけると、幸人は公園の真ん中に立つポール時計の元へと向かった。
子どもの遊びに巻き込まれたのだろうか?
背の高い古びたポール時計は、ところどころ銀色の塗装が剥がれ落ちて錆が目立ち、根元付近に凹みや傷がある。
「この人なら、事件を見てるかも」
「幽霊か?」
「どっちかっていうと付喪神です。まだ若いけど、多分目覚めてるんじゃないかな?」
幸人がポール時計を撫でながら、霊的気配を探る。
まだ付喪神と化してから日が浅く、力は弱そうだ。
だが、呼び出して話を聞くぶんには問題ないだろう。
「人間嫌いじゃなきゃいいんだけど……」
ボールを当てられたり、石やコインで引っ掻かれたり、シールを貼られたり。
このポール時計が、公園に遊びに来る人々のしたことに腹を立てていないことを祈る。
人間なんて碌なもんじゃないと協力を拒否されたら、その時は菓子折りの一つでも手に説得をしなければならない。
「とりあえず、呼び出してみます。龍之介さんはちょっと下がっててください」
言われるまま、龍之介が数歩下がった。
幸人はポール時計に意識を集中させながら深呼吸を何度か繰り返し、二礼してからパンパンと二度柏手を打つ。
そして、鋭く息を吸った。
「此 の神床 に坐 します、掛けまくも畏 き時守 の神の大前を拝み奉りて、恐 み恐み白 さく」
無人の公園内に、腹の底から発された声が響く。
犬の散歩をしていた老婆が、通りすがりに訝しげな視線を二人へ向けた。
「御身の眼間 で起きし先の神隠しにつきて、知れることを教へ給へと恐み恐み白す」
祝詞を唱え終え、公園内に再び静寂が戻ってくる。
何が現れるのかと固唾を飲んで見守っていた龍之介だが、しばらく待ってもなんの変化も起こらない。
「……ユキ?」
心配になって幸人へ声をかけた時だった。
目の前のポール時計がわずかに揺らいだように見え、龍之介は瞬きを繰り返す。
「嗚呼、ようやく……」
そして、二人の耳に澄んだ女の声が届いた。
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