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1-16. 野礼山

「あ、お兄ちゃんたち!」  リビングに降りた二人を出迎えたのは、龍一郎と龍樹だった。  龍樹が幸人に気づいてパタパタと近寄って来る。 「大丈夫? 怪我してないっすか?」 「うん、助けてくれてありがとう!」  ぺこりと礼儀正しく頭を下げた龍樹を見て、幸人が安心したように微笑んだ。  見たところ、怪我も穢れによる体調不良もなさそうだ。  いち早く事態に気づき、龍樹を守った幽霊たちのおかげだろう。 「怖かったっすよね……。でも、もうあのオバケは来ないから、安心してね」 「そうなの? 僕のことを助けてくれたオバケさんたちには、もう一回会いたかったな……」 「それは大丈夫っすよ。みんな近くで龍樹くんを見守ってくれてるから、きっとまた会えるっす」 「本当? よかったぁ……」  ホッと息をついて笑う龍樹につられて、幸人も笑顔になる。  なんというか、とても素直な子だ。  本当にあの龍一郎の子なのだろうか? なんて考えてしまうくらいには、いい子だと幸人は思う。 「念のため、おまじないしとこっか。こうやって丸を作れる?」 「うん!」  幸人が両手の指先を合わせて大きな円を作ると、龍樹もそれを真似をして見せた。 「エンガチョ切ーった!」  その円を、幸人が手刀ですぱんと切る。  これで零落神と龍樹の縁は切れた。  新たに遭遇しない限り、零落神が龍樹の気配を辿ることは出来ない。 (あとは、万が一のために結界を張っておいて……)  この家に近寄れないようにして、千福の帰りを待つ。  零落神が再び動き出すより先に居場所を見つけたら、あとは連れ去られた人々を救うだけだ。  ……その、救うという作業が一番難しいのだけれど。 「龍樹、部屋に戻っていなさい」 「はーい。またね、お兄ちゃん」  バイバイと手を振って、龍樹が階段を登る。  消えていく小さな背中を見ながら、幸人が小さく呟いた。 「龍樹くん、龍一郎さんの子とは思えないくらいいい子ですね」 「だろ。龍樹も結奈も義姉似でよかったぜ」 「聞こえてるぞ」  腕組みをした龍一郎が、大きなため息をつく。  しかし、その視線に初対面の頃のような険しさはない。 「お前たちのおかげで助かった、礼を言う」 「いえ、なんとかなってよかったです」 「これで借し一つだな」  穏やかに笑った幸人と、ニヤリと口端を吊り上げた龍之介。  龍一郎は表情を崩すことなく、幸人に目を向ける。 「龍之介の言う通りだ、キミには一つ借りが出来た。もしも必要なものがあるなら、なんでも言えばいい。金だろうが人だろうがすぐに用意しよう」 「ありがとうございます、必要になったら連絡しますね」  龍一郎の申し出はありがたい。  千福が手がかりを持って帰って来たら、零落神の居場所を探さなくてはならないのだ。  人手は多い方がいい。

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