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第1話

   すっかり暗くなった帰り道を歩いていると、街頭の向こうに橙色のそれを見つけた。  小さく明かりが灯ったようなその実に、僕――(とおる)は吸い寄せられるようにまっすぐ近づいていった。  道路の上にひとつ、丸く転がり落ちた橙色のそれを、そっと手に取る。 「ほおずき――?」  そう呟いたとき、全身が何かに吸い込まれるような感覚があって、僕ははっと顔をあげた。  それは一瞬の出来事だった。  自分の周りの景色が一変している。  いま自分が確かに立っていた鼠色のアスファルトは、茶色の乾燥した土になり、どこにでもある閑静な住宅街の景色は消え去っていた。  あたりは、建物がなにひとつ見当たらない荒涼とした地面がどこまでも続くばかりだ。 「ここは……」  言葉をなくして、前や後ろを見渡すも、心当たりはない。  ここは、どこだ……?  すぅっと、乾いた生ぬるい風が頬を撫でる。  自分は、どうしてこんなところにいるのだ。道に落ちていたほおずきを拾って、それから――  何かが耳元で囁いたような気がして、反射的にその方を振り返った。  ふふ…うふふふ……  女の、いや子供の声だろうか。どこか遠くから響いているようなのに、すぐ耳元で聞こえてくる。  あたりを見回して、おずおずと足を踏み出す。  じゃり、と自分が地面を踏みしめる音が、やけに鮮明に響いた。    向こうからなにか微かな音を聞いたような気がして、僕は目を凝らす。    荒地の遠く、じっと見つめないと砂けむりでぼやけてしまう地平線から、何かが歩いてくる。  それはがやがやと音を立て、地響きのような足音を伴って、次第にこちらに向かってくる。  その姿が視界にしっかりと捉えられる時になって、澄はそれをまじまじと見つめ、ぞっとして息が止まった。  やってくるそのものたちは、足が三つある者、目がひとつしかない者、頭と思しき部位から手足が出ている者、一方で首がない落ち武者のような者――この世の者ではない、異形の者たちであった。  その中には、頭頂部から角を生やし全身が赤や緑色の大柄な者が、ずしんずしんと筋肉質の足で音を立てながら歩いている。 「あ……」  鬼だ――。  恐怖で身体は岩のように重く、じっとりと滲んだ汗が、やがてゆっくりと額を伝う。  逃げなきゃ――……  咄嗟に走り出そうと、身を翻そうとするも、まるで岩にでもなったかのようにまったく体が動かない。  ッまずい――。  こうしている間にも、その異形の一群は、こちらに向かって進んでくる。  逃げなければと頭が何度も警鐘を鳴らす。心臓がどくどくと音を立て、立つ足が震えてくる。  だがなぜか身体が動かない。  全身の持てる力をこめて体をひねり、後ろを振り返れば、そこに人を見つけて、澄は目を見開いた。  そこには、少年がいた。

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