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第1話
恥ずかしくて、惨めだ。
うわぁ引くわ、ありえねぇ、変態。
こういうのが好きなんだ?蘭くんは。
口々に蔑み、下卑た笑い声に晒され、心は疲弊している。
今すぐ消えて無くなりたいと思いながら、次はどんな命令 が来るのかと待ちわびていた。
骨の髄までお前はSubだと知らせてくる本能に、抗う術はない。
止まらない涙にも絶望させられながら、吉継を踏みにじるDomの足元に跪いた。
吉継が、目を覚ますと目の前は真っ白な世界だった。最後に見たものが真っ黒な世界だったので、記憶と結びつかず、「ついに死んだ」と思った。
不思議と焦りはなく、ただぼんやりしていると、「死んでいない」と聞こえた。
黒目が声の方へと動いた。
人だ。
若い男性。
知らない人。
Dom、だ。
縁もゆかりもない、会ったこともなければ、見たことすらない人なのに、彼がDomだということはわかった。
軽くウェーブがかかった髪をきれいに流している。自信に溢れて、目を眇めて吉継を品定めでもするような視線はよく見慣れたものだ。
傲慢で、人を人と思わない、Subを奴隷のように扱うDom。
--- 今度は彼がご主人様か…?
「死んだと思い込むと、死体のように動かなくなるのか」
「動かないので…」
素直に、体の状態を言うと、Domの彼は目を見開いて、席を立ち、どこかへ立ち去った。
そこで初めて吉継にも、ここはどこだろう?という気持ちが湧いてきた。
白い壁に白いシーツ、消毒液の匂い。
病院なのかも知れない。
ということは、あれはもう終わったのか。
しかし、経緯が全くわからない。
わかるのは、命令 が貰えなかったことだけだ。
「ふ…っ…」
なにかしてしまったのだろうか。|命令《コマンド》がもらえず、こんなところで目を覚ますことになるなんて…。
勝手に涙が溢れてくる。
また捨てられた。
命令 を聞いても捨てられる。
吉継の何が気に入らなかったのか。
Domはいつも教えてくれない。
いつも、"飽きた"、"もういい"と言われてご主人様との関係は終わる。
次のご主人様に渡され、しばらくするとまた"面白くない"と言われて捨てられる。
繰り返しだ。
蔑まれてもいい。
吉継だって、わかっている。
酷いことしか言わないDomに縋るしかない惨めで滑稽な姿。
でもDomはみんなそうだから仕方ない。頼んだわけでもないのに、Subに生まれてしまった。役割をこなさないとおかしくなる。
次のご主人様は、捨てない人がいい。
そう思って目を閉じると、すうっとなにかに体を引っ張られるような感じがして、目を開くことはできなかった。
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