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第2話

 次に目を覚ますと、また違う風景だった。  ただ広い部屋。  モデルルームのように、完璧な配置の家具。  カーテンが半分しか引かれていないので、窓から景色が見える。  窓に近寄り、景色を見渡す。  ネオンが遠い。今が夜で、高いところにある部屋らしいことがわかったが、ここがどこかはわからなかった。    鍵の音と共に人が入ってきた。  「もう動いているのか、頑丈な奴だ」  「君は、蘭吉継さんで合っているかい?検温させてもらいたいからベッドに座ってくれるかい」  二人入ってきたうちの一人は、スーツよりラフな格好に変わっているが、さっきのDom。  もう一人はやっぱり知らない人だが、白衣を着て言っている内容から、医師か看護師かとあたりをつけるが、判断材料に乏しく自信はなかった。  つい、素直に頷いてベッドに座ってしまったが、これでいいのかわからない。  「今どき水銀だけど、正確だから。脇に挟んで」  着ていたシャツのボタンを外して、受け取った体温計を脇に挟む。  しん、と静まった部屋に、四つの目が吉継を見ている。居心地の悪さから、疑問を口にする。    「あの…、あなた達は誰ですか? ここはどこですか…さっきのところもわからないままここにいて…」  「はははっ、やっとまともな事を言ったな」  「特に熱は無いね。血圧も正常だよ。ここは、この人…厚木聡実さんの家だ。ここでしばらく療養するといい」  「厚木…さんの家…」  「別宅だ」  厚木聡実。どこかで聞いたことはあるが、思い出せない。  「家に帰ります」  「なぜ」  「療養も、ここでお世話になる理由もありません。こんな…初対面なのに…」  「ああ、説明不足で申し訳ない」  医師らしき人が、自己紹介をする。  押元琉衣(おしもとるい)、医師らしい。今日から吉継の主治医になるという。  …主治医?  「蘭さん、本来ならあなたがこんなに元気なことが不思議なくらいなんだが、君は、Subだね」  「はい」  二人とも目を見合わせている。  なにか変なことを言っただろうか。返事をしただけで。  先に口を開いたのは厚木だった。  「お前、サブドロップしたことはあるか」  「ありません」   時々、体が動き鈍くなることはあるが、それもしばらくするとおさまり、普段どおり動けるようになる。  「命令(コマンド)をもらえないときはどうしてた」  「なにか、ご主人様の…Domの気に障ることをしてしまったのだと思いましたが、なにが悪かったのかわかりません…聞いても誰も教えてくれなくて…」  「Reward(ごほうび)がない時は?」  「DomがいつでもReward(ごほうび)をくれるわけではないので、ある時もない時も同じです」  「…」  押元が何かを言いかけたが、それより大きな声を出したのは厚木だった。  「君は…」  「気に入った」  「はい…?」  「気に入ったと言った」  「蘭吉継、しばらくお前は俺のSubだ」  厚木が傲慢に言い放つ。厚木の滲み出る傲慢さや人を食ったような態度は、押元がいう、”主治医からの療養診断”よりも吉継にはわかりやすかった。  …やっぱりこの人が新しいご主人様だった。  でも厚木が飽きたら、また捨てられそうな予感。  もう、仕方ない。  「わかりました」       

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