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第6話

 「離して下さいっ」    「聞き分けのないSubだな」  玄関から長い廊下で出ていく吉継と部屋に戻す厚木が攻防するが、吉継よりも頭一つ背が低くて細身の厚木に、どこにそんな力があるのか、吉継の抵抗をものともぜず寝室まで引きずられてしまった。  「厚木社長っ、どうしてこちらに…」  「野暮用を思い出して来たが、…笠井、お前が社に戻って対応しろ。俺はここで用を済ませる」  「ええっ」  「山科さんにも帰ってもらえ。明日の朝まで来なくていい」    厚木はそれだけ言って、寝室のドアを閉めた。  ベッドに放られる。スプリングが効いたベッドに揺らされて、起き上がるのが遅れた。  腹の上に厚木が跨がる。  「ニュースは観たのか」  「み、観ました。よくわかりました。わかりましたから家に帰らせてください」  「なぜ」  「何故って…」  「お前の家は野次馬だらけだぞ?しばらくここにいたほうがいいと思うが」  「ここにいたくありません」  「ここのほうが安全だろ」  押しつけがましい厚木の言様にイライラしてしまう。昨日から沸々としていたものが、吹き出てしまう。抑えられない。  そんな”助けてやった”という顔をするな!  「放っておいてください!」  「…」  「俺は助けて欲しくなんかなかった!そんなこと頼んでいない」  あれでよかったんだ。  蔑まれても、暴力を振るわれて、生活が壊れても、それでよかった。    笠井も、山科も吉継を可哀そうな目で見ていた。被害者の吉継に同情している。  押元に至っては、最初から”被害者”として診て、吉継を病人として扱っていた。  …俺は”可哀そう”じゃない…  それよりも、Domがいない。先が見えないことの方が不安で仕方ない。  吉継の生活をめちゃくちゃにした”|ご主人様《アイツら》”だって家の中までは入って来なかった。  あそこが一番安全なんだ。痛くても惨めでもよかった。今日からDomがいないことの方が我慢ならない。早く帰りたい。家の中 が 一番 …    「はははっ、やっぱり思った通り…あっはははっ」  唐突に厚木が笑いだした。可笑しそうに。  気でもどうかしたのかと、吉継はあ然とした表情で厚木を見上げた。  厚木は、吉継の腹の上に乗ったまま、ゲラゲラ笑っている。可笑しそうに。目は新しい玩具を見つけた子どものようだ。愉快で仕方ないといったふうな。  「俺は本来なら他のDomに手垢をべっとりつけられて、あまつさえ洗脳までされているSubに興味はないんだが…」  ぐいと胸倉を掴まれ、引っ張り起こさせられる。  吉継を射貫く強い目Domの目。    「お前は気に入った」  「ど、どうして…」  すべてを知っていると言い放ち、吉継の秘密を暴いて絡め取ろうとする。なんて嫌なDom…。      「お前、虫も殺さないような顔をして、あの凄惨な状況を愉しんでいたな?」  「……」  「お前は命令(コマンド)欲しさに洗脳と暴力も受け入れた、ネジが飛んだSubだ」  あのとき…  厚木が入ってきたとき。  ”ご主人様”達の足を舐めて服従していたとき…。  慌てふためく男達。  口々に保身の言葉を言いながら、次第に諦め、警察に連れて行かれた。  気を失うまで、”被害者”であるところの吉継は、厚木を迷惑そうに見ていた……  「お前が俺の言うことを聞けるなら、命令(コマンド)を与えてやる」  …この人も嫌なDomだ。Domなんてみんな一緒だ。命令(コマンド)を出し惜しんで、貪欲な吉継を嗤ってる。Subがいないと欲求も満たせないくせに…。  「聞く」  この人が飽きるまで。  吉継はこんな生き方しかできない自分を呪いながら、同時にどんな命令(コマンド)で満たしてくれるのかと期待に震えた。  「いいこだ。たっぷり可愛がってやる」

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