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歪 出会いの始まり

 カツン、カツン、カツン  天井の高い広々とした空間の中で来訪者の足音だけが広がる小さな異空間。僕はそんな空間が好きだった。  昔から誰かと話すのが苦手で、自分の意見を上手く言えない。幸いにも両親は僕の性格をあまり気にしなかった。いいのか悪いのかは、わからない。でもある日、両親が休みの日に僕を美術館に連れて行ってくれた。初めて行く場所だったこともあって、僕は珍しくテンションが上がったっけ。  様々な作品を見ながら、ちょっとしたことをノートに書いていく。例えば、絵画の解説を見ずに第一印象を書き留める、とかね。でも美術品はこの美術館だけでも100個以上ある。一個一個丁寧に見ていたらキリがない。そんな果てしない作業を繰り返すのは僕にとって苦ではないんだ。 「この作品は……実に美しい」  次の作品に進もうとしたらある人に目がいってしまった。聞き取れるかどうか、微妙な大きさの声に思わず反応してしまった。声の主を見ると、フランスの彫刻家が創ったようなきれいな顔をした男性だった。淡いマロンクリームのような色をした髪色に薄いグリーンの瞳、すらっと伸びた手足は白衣を纏って全体的に儚い。 (こんなにきれいな人、いるんだ……)    ずっと見ているのも失礼だ、と思ってその場を離れようとした。どうせ、僕に関わることはこの先ずっとないんだ。この芸術品と一緒に、最高の思い出として心に残しておこう。  そう思っていると、頭上から声がふりかかった。 「ちょっといいですか?」 「……?」  割り切ろうとしたその時。独り言をつぶやいていた事が僕を呼び止めた。まさか、こんな空間で話しかけられるとは思ってもいないし、かなり驚いた。 「なにか、御用ですか……」  話しかけられたのはうれしい。だけど、一秒でも早くこの場を去りたかった。幸い出口まであと少しの距離ではある。その少しの間でも僕は逃げたかった。 「お話がしたいのでこのあとどうですか?」  これが、ナンパというやつか……。自分がどれほど尻軽で人懐っこい性格ならよかっただろう。生憎様、元のスペックはそんなに高くないし、かわいくもない。ましてや、僕は男だ。普通はこんな平々凡々な男に声をかけるだろうか。いや、かけない!僕が逆の立場だったとしても絶対にこの平凡な男には声かけない!!(イケメンでも声かけない!!) 「いい、です、けど」 「やった。ありがとうございます」  ジーザス  今すぐこの側面に飾ってある壁の絵の教会に入り込んでマリアを拝みたい。  勢いで言ってしまったというのもあるが、なぜOKしてしまったのだろう。でも断る理由もないし、もし困ってたらって考えるとどうしても断れなった。

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