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歪 知り合いになりましょう

「あの、ご用件は……なんですか」  さすがにあのまま美術館の中で話し続けるのはマナー的によくない。周りのお客さんも何人かちらちらこっちを見ていたし。何より僕の気持ちが落ち着かなかった。 「いきなり声をかけてしまって申し訳ありません。僕はこういったものなんですが……」  いきなり声をかけてきた彼は名刺をポケットから出した。 『宇條綾生(うじょうあやせ) 都立大学教授 解剖生理学科』  僕の通っている大学の教授だった。  学科こそ違うものの、名前だけ知っている教授だった。女の子たちがよく噂してたっけ。  なぜこんな偉い人が僕みたいな埃みたいな生徒に話しかけてくれたんだ?謎過ぎる……というか、恐れ多すぎる。でもでも!何か迷惑をかけたとか、そういうことは絶対にしてない。……多分。 「あ、えっと。その、教授……ですか」 「はい。一応は。でもあまり授業などはしていなくて。大学の方からお声がかかりましてね。資金は援助するから教授になってくれって」 「すごいですね……うちの大学、自分で言うのもあれですけど結構レベルがた、高いですよね……」 「そうみたいですね。ところで、君の名前を教えてもらってもいいですか?いかんせん気になったので突然声をかけてしまったので……」 「……僕、麦野ララ(むぎのらら)っていいます」  久しく人に自己紹介をしていなかったつけが回ってきてしまった。最近は人と話す機会が減ってなおかつ僕も人見知りでっていうダブルコンボで自己紹介をしていなかった。 「かわいい名前ですね。あの、言いにくかったら言わなくていいんですけど、その手に持っている手帳には何が書き込んであるんですか?」 「こ、これは……その、えぇと」 「すみません、無粋な事を聞いてしまいましたね」 「いえ、別に!大した事じゃないので……気にしないでください」  あぁ、言い淀んでしまったぁぁぁ!  せっかく話しかけてくれたのに!!話題を作ろうとしてくださったのに!!会話のチャンスをすべて棒に振ってしまった。あぁ、ララ、一生の不覚。自害したい。 「では、ちょっとここで長話は少しあれなので、僕の研究室に来ますか?」 「えぇ…さすがに迷惑じゃないですか?僕たち今日会ったばかりですよね……」  綾生さんの雰囲気に呑まれる所だったが、僕たちはついさっき美術館の中で出会ったばかりで。まだお互い名前と職業しか知らない。普通こんな他人同然のような仲の人間をいきなり研究所に呼んだりするんだろうか。でも大体アニメや漫画の科学者は変人だったりする。一概には言えないかもだけど、この綾生さんも変人ゆえに僕を研究所に呼ぶのだろうか。

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