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歪 なんで?
「お茶をどうぞ」
結局あの後、道端で立ち話もあれだから、という理由で綾生さんの研究室にお邪魔することになった。研究室の中はいかにも科学者、という風貌のモノがたくさんあった。棚にはホルマリン漬けの生物の何かがあってちょっと怖かった。
「大丈夫です。変なものは入れていません。それとも、紅茶の方が良かったですか?」
「い、いえ!大丈夫です……!」
ホルマリン漬けや人体模型に囲まれながらお茶を飲む日が来ようとは……ある意味一生忘れられない体験だ。
ゴクリ、と少し多めにお茶を飲み、綾生さんと向き合った。綾生さんは何かの書類に目を通していた。
「さて、早速本題だけど……って、そんな怯えないでよ。なにも取って食うわけじゃないんだから」
「そそそ、そうですよね……」
いざ真剣に向き合われると少し緊張する。そして、なにより顔の造形が美しくて直視すると恥ずかしくなってしまう。なんとか隠そうと視線を逸らすも挙動不審になってしまってどうしようもできない。
「単刀直入に言います。麦野ララくん。私の研究材料になってください」
何を言っているんだろう
多分言語なのは理解できる。しかし、僕は言われたことを正しく理解できなかった。僕を研究材料にするだって?もしかして、ホルマリン漬けになるのかな……いやだなぁていうか、絶対なりたくない!!
「はい?もう一度言ってもらえますか?」
「研究材料になってください」
「何の?」
「僕の」
「研究とは?!」
「うーん、軽く言えば、実験です。ララ。君は、オーガズムを感じたことはありますか?」
やっぱり脳みその処理がうまくできない。なんで綾生さんの研究が僕の快感と繋がるんだろう。
ちらりと綾生さんを見ると彼はいたって真剣だった。まるで、昔失った物を守る人のような、鋭いまなざしだった。何故か僕はその目に吸い込まれてしまうような気がして、でも彼を見るのをやめられない。
「で、あるんですか?」
「どうしても、答えないといけないんですか……?」
「はい」
「…………あり、ます」
恥ずかしかった。僕だってまだ十代だし、男だ。人並に自慰だってする。けど、大学でもこんな話する人、いないし、ネットにだって共感を求めてこの話題をひけらかすほどの度胸もない。
「最後に行ったのはいつですか?」
「一週間前、ぐらいです……」
ほう、と綾生さんは息をついた。その間、持っている紙に何かを書き込んでは僕に質問をしてきた。聞かれる内容としては、主に自慰の事についてが多かった。いつしたのか、誰かとやったことはあるか、玩具は使うのか、など様々な事を聞かれた。普段から下ネタや下世話話に慣れていない僕はひどく顔が熱くなっていた。
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