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歪 断らないで

「あの、綾生さん!もう、その……え、えっちな、はなしはやめてください……」 「おや、ララくん。顔が真っ赤じゃないか。熱でもあるの?」  そういって綾生さんは僕の額に手を当てた。その微かなふれあいでさえ、僕には刺激が強かった。  やっと綾生さんの質問攻めが落ち着いた頃には僕は変な気分になっていた。普段こんなに体が熱くなったりすることはないのにやけに体の芯が温まってきて、不安を駆り立てられる。 「なんで、僕の性事情が綾生さんの研究に関係あるんですか?」 「あぁ、本題を忘れかけてしまいましたね。実は僕、解剖生理学をやってるってさっき言いましたよね」 「はい」 「その中で特に僕は『快楽』について研究しているんです。名目上は主に人間の三大欲求である睡眠欲、食欲、性欲などを研究している人、ってことになるんです」 「はぁ……」 「で、その中でも快楽って人によって違うじゃないですか。そこで君には「性欲」の実験のプロトタイプになってもらいたいんです。詳しくはお伝えできませんが、残り二つの欲求もプロトタイプが二人います」  だんだん話が難しくなってきていまいちちんぷんかんぷんだが、とりあえずホルマリン漬けになる心配はしなくてよさそうだ。つまりまとめると、綾生さんは人の根源を調べていて、その実験に僕の「性欲」が必要だと、言いたいみたいだ。 「そこで、僕の研究の本題です。人はどこまで痛みに耐えられるか、知りたくないですか?」  その質問にぞっとした。なぜか、ひどく悪寒が走って、心臓の内側がひどくぞわぞわし始める。  ここにいちゃいけない。早く逃げないと。でもどこに?  生憎友達はいない。両親にもこんな馬鹿げた話、信じてもらえない。あぁ、どうしよう。    内側で自己嫌悪が渦を巻く。 「快楽の最中のダメージにどこまで人はたえられるのか。それが僕の研究です。参加、してくれますよね」  パニックになっている状態の僕に綾瀬さんは落ち着いた声で言う。  しかし、その言葉が僕の意思は通させない、と言っているみたいで。否定されているような気分で、逃げられない。向き合うしか僕に道はない。 「ララ君?」 「綾生さんは、なんで僕を選んだんですか」  それだけが聞きたかった。  嘘でもいい、僕じゃないといけない理由が欲しかった。たまたまそこにいたから、とかはいやだ。でも、綾生さんの答えは明確で、それ以外の言葉を発することはないとわかっているから、余計辛いんだ。 「君を、僕のモノにしたいからだよ」  綾生さんが口を開いた瞬間、僕の耳は綾生さん以外の声を拾わなかった。僕の思っていた答えじゃない、僕が欲しかった答えを彼はくれた。  それだけで僕は十分だ。

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