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第56話(END)
「そ、そうなのですか……いやはやお恥ずかしい……いくら世間知らずだった子供とは言え、私のした非礼は謝っても謝り足りません」
「けど俺もガキだったらやってたと思うな。ムカつく奴がいたら蹴りたいだろ、そりゃ。いやーわかるわかる。わかるぜ爺さん」
そう首を縦に振りながら肩を叩く。
とてもではないが高潔な騎士の言葉、そして口調とは思えず、あんぐりと口を開けているオイゲン。
「あのう……ファング様の訃報は……この村にも伝わっています。こんな田舎にまで出向き、古の怪物まで倒していただいた救世主様でしたから……。私共は村を離れたことがありませんし、何より王都になど行ける身分でもありませんので、葬儀にも参列できず……何と申したら良いか……」
「いいっていいって。っつーか、この村……なんでこんなに寂れたままなんだ? バルドが王都に行った後、世話になった礼に金銀財宝を送られたって聞いたけど。誰かに盗られたりしてないよな?」
「め、滅相もない。やはり私共のようなしがない村人にはもったいない代物だと、送り返したのですよ」
「はあぁ!? 大人しく貰っとけよ。誰だよそんな余計なことした馬鹿」
「…………わ、私のせい、です。富よりも思い出が大事なのではないかと、周りの大人に力説してしまいまして……。や、やはりほんの少しくらいは必要でしたかねぇ……」
「爺さん、やっぱ俺、あんたのことわかんねぇわ。うん、わかんねぇ」
なかなか破天荒すぎる少年だったオイゲンも、現在は低姿勢を貫いていて。
時間の流れは怖いというより、こうも人格まで変えてしまうとは、摩訶不思議なものだなと思った。
「それで……バルドゥイン様は、ご健在なのでしょうか。ファング様を亡くされてからご傷心ではないかと、心配で……」
「健在も心配も何も……そのために俺が生まれて、こうして生きてる」
そう、騎士以前に、ウィングは存在そのものがファングの生きた証。
バルドのように心優しいオークも世に存在して、人間と愛を育むこともできるという架け橋。
ノートゥングをその場の地面に突き刺し、拳だけで思いきり土を削るほどの力強さを見せた。
金髪をかき上げ、ファングとは正反対に、ルビーのような情熱が宿る赤い瞳。
そして、ファングの遺品から指輪以外に、もう一つ。
もう錆びれてしまったが、ドラゴンの牙の首飾りを胸を張って見せ付ける。
何よりも、その自信ある佇まい。
オイゲンは幼心に覚えている、彼の面影すらも垣間見た。
もしや……と言葉を失うオイゲンに、口元だけを吊り上げてフッと笑う。
「俺はバルドとファングの息子、ウィング・クヴェレ・ジークフリートだ」
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