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第55話
「な、なんと……その、身体の色と巨体……バルド……!? 嘘だろう……やっと帰ってきてくれたのかっ……!」
村長と思しき老人が、腰の曲がった身体でもっても無理をして駆け寄り、目元にいっぱいの涙を浮かべてウィングの両手を握り締めそうになった。
しかし、彼が人間離れこそしていようが騎士であることがわかると、手を止めた。
「……い、命を助けていただいたというのに、申し訳ございません。人違い……というか、とにかく相手を間違いました」
「人違いじゃなくオーク違いか?」
「そ、それは……。どうしてご存知なのですか」
村長が目をぱちくりとさせる。
もうバルドがこの村で懇意にしてもらっていたこと、オークのことを知っているのは、村でもほんの一部だろう。
「なぁに、この肌の色を見てもわかる通り……知り合いなんだ。ああそれはもう、嫌ってほど知ってる」
人より長生きであるバルドさえも、隠居してからすっかり老け込んだ気がする。
ファングの後追いなど何より彼のためにしないが、討伐依頼でいつも外出するたび、とても心配をしてくれる。
あれを持ったかこれを忘れていないかと、もういい大人なのに念入りに聞いてきて、そして「無事生きて帰って来れますように」と十字を切って祈る。
あの二人は幼心にでも理解できるくらい、確実に種族を超え心を通わせていた。
自分はそのファングの忘れ形見なんだな、と思うと、バルドがそこまでもう大切な人を失いたくない気持ちも、口にはしないだけでわかるし感謝もしている。
いくらバルドが人間より寿命が長いからって、時代は変わったんだ。混血のウィングの方がきっと……バルドより長生きする。
そんなことも考えないで、いつも他人のことばかり。
ファングだけじゃなくバルドまで先に見送ることになるだろう俺の虚しさは無視かよ、と反抗期に戻りそうになる。
まったく、両親は異種族とはいえ同性同士だからどうもこうも性格上の問題だろうが、どちらも言動が父親なのか母親なのかよくわからなかった。
でも、そんな二人が好きだったし、今でも彼らの絆に敵うものはいないと信じている。
自分も、もし混血種であることを気にせず愛し愛される相手が現れたら、その気持ちがわかるんだろうか……。
「そういえばお前……もしかして、ファングのアソコを蹴り上げて危うくタマを潰しかねなかったオイゲンか? 小心そうな爺さんのくせに、大胆なガキだったんだなぁ……」
「な、何故、騎士様がそれを……!? まさか王都で有名な話にでもなっているのですか?」
オイゲンは恥ずかしさと情けなさと申し訳なさと。様々な感情が絡み合い、あたふたとするばかりだ。
「いや、あの時お前がいなければ、バルドをただの怪物と思い殺していたかもしれない、って生前は感謝さえしてたぞ。安心しろって、そんな笑い話、ごくごく一部の信頼できる者にしか口外してない……つーか、あれは何回聞いても……ブハハハッ」
両親の馴れ初めが少年による金的からだなんて、これが人間同士であろうが、あんまりにも珍エピソードすぎて笑いが止まらない。
腹まで抱えて爆笑してしまう始末である。
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