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第1話

生にも、記憶にも執着はなかった。 仮初めの命、消去される記憶。それが自分の全てだった。 そして、それも終わる。 ゆっくりと、漆黒の宇宙の塵の中を揺蕩う。いいや、違う。実際は、恐ろしい速度で落下しているはずだ。感覚器官が麻痺してしまっているのだ。走馬灯というものだろうかと、思わず笑う。 死を前に走馬灯が見えるのは、人間だけの特権だと思っていた。 確かに自分は人間を基盤としているが、体の大半を機械化された、人間の玩具でしかない。 長い歴史の中で、人類はより傲慢になった。母なる大地を焦土と化すまで酷使し、ついには他の惑星へ、その食指を動かした。星を食い尽くし、また新たな星へ。ついには銀河をまたに駆けることを目論んだ。しかし、物理的距離の前に肉の器は無力であった。 さらに、異なる銀河系においては、人類によく似た存在が生息し、星の支配権を奪うだけで血が流れることも少なくはない。 ならば諦めておめおめと故郷に引き返せばいいものの、人間の欲望は底無しであった。果てない欲望を叶えるため、光速に絶えられるよう体を強化され、銀河を駆けることを強要された探索員。他の玩具と区別するためだけに自身に与えられたコードネームはフルド。 それだけが与えられた自分を示す情報。 楽園を探せ 我ら探索員に課せられた使命。 その使命の前では、作られた命など詮無いもの。 使命を果たしたとしても、何の利益もない。惑星で知り得た情報は、人間により抜き取られ、綺麗サッパリなくなった状態で、次の任務へ向かう。複数の探索員と合同で任務に当たるが、初めましてなのか、また会いましたねなのかもよくわからない。 おそらく変な仲間意識を持つと人間に反旗を翻すかもしれないという思惑からだろう。ただし、略奪行為の記憶は残る。これは貴重な戦闘経験だから、これまで消去してしまうと使い物にならないからだろう。とはいえ、略奪行為にトラウマを発症すると、その記録ごと消去されるという話を耳にしたことがある。自分は、そのあたりの記憶はしっかり残っているので、発症したことはないのだろう。 この戦闘機と共に、見知らぬ星に落ち行く。最後に見た景色は透き通るような青だった。記憶では知らない、かつて存在していたという、名前がでてこないが、あれは何だったか。思い出したところで、事態が好転するわけでもない。終わるのならばそれも良い。言葉の通りの意味だ。強がりでもなんでもない。人間のために作られた存在が、人間のために消えるだけだ。そうして、ゆっくりと目を閉じた。

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