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新生活②
碧央は、自分はまだ臣が好きなのだと気づいた。いや、ずっと気づいていたが知らないふりをして誤魔化そうとしていたのかもしれない。もうどうせ会うこともないだろうと思っていたからだ。しかし予想は覆され、3年前のように臣が近くにいてまだ自分のことを諦めないと言ってくれている。
この状況からも自分の気持ちに認めざるをえなかったのだ。
しかし、認めたからといってこの気持ちを臣伝える気など毛頭ない。
「⋯あんなに臣くんのこと傷つけたし⋯それにどうせ僕は⋯」
出来損ないのΩなんだから。
――――――――――――
「こんなに重いの持てるかな⋯」
滝川碧央、24歳。ある危機に直面しています。
碧央は事務員から呼び出され、事務室に届いている新しい救急セットを保健室まで持って行って欲しいとお願いされていた。
これが軽かったのならば非力な碧央でも持てるだろうがダンボールいっぱいに詰まった救急セットは意外に重たい。
生徒にお手伝いを頼むのも、休み時間中だから申し訳ないし、1人で持っていくしかないかぁ⋯
「よいしょっと⋯!」
お、おっっも⋯なにこれ救急セットってこんなに重たいの?保健室まで階段降りないといけないのに⋯
「⋯もっと筋肉つけよ」
――――――――――――
よし⋯!あともうちょっと!あの角を曲がれば⋯!
「うわっ!!」
「⋯え」
角で誰かとぶつかり、バサバサッと音を立てて落ちたのは生物の教科書だった。
「す、すみません⋯!!」
「こちらこそすみません!ってあれ、滝川先生ですか?」
「は、はい。そうですけど⋯」
「あ、すみません。俺の事まだ知らないですよね。俺、藤原和紗(かずさ)って言います!
年は25!担当教科は生物!星座は牡牛座です!よろしくお願いします!」
「は、はぁ⋯。」
碧央は和紗の熱血な自己紹介に少々押され気味だった。
「俺達、この学校の教師の中で唯一の二十代なんです。だから滝川先生と仲良くしたいなぁって思ってて⋯!」
あ、この人αだ。照れくさいのか頬を少し赤らめながら頭を掻いている姿にそう確信した。
碧央は小さい頃、できるだけαに近づかないようにしていたため、第二次性をすぐに判断できるようになっていた。
⋯まあどうせ僕は発情期来ないからどうでもいいけど⋯
「そうなんですね。僕も仲良くしてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします。」
ぺこりと効果音がつくようなお辞儀を和紗にしてみせた。
「あっ、そうだ!怪我とかないですか!?俺めっちゃ走ってたんで、痛かったでしょ!?」
「あぁ、全然大丈夫ですよ!このダンボールがクッション代わりになってくれました⋯!」
「そうですか、良かった⋯でも何を運んでたんですか?」
「救急セットです。前のが古くなってきたから新しくするらしくて」
「へー!っておっも!意外と重いですねこれ」
「ですよね!ここまでよく持ってこれたと自分でも思いますもん笑」
「あ、俺保健室まで持っていきますよ」
「えっ!いいですいいです!自分で持っていきます!」
「俺筋肉だけには自信あるんで!任せてください!」
そう言って碧央の返事を聞く前に和紗はもう荷物を持って歩き出していた。
「なんだか嵐みたいな人だなぁ⋯」
――――――――――――
「よしっ!」
「すみません、ありがとうございました⋯!
助かりました。」
「いえいえ、これぐらいどうってことないです。⋯というか、もしこれから困ることがあったら俺の事いつでも頼ってくれて良いので、遠慮なく言ってください。」
「っえ、でもそんな悪いです⋯藤原先生も毎日お忙しいでしょう?」
「あはは⋯まあ、俺もまだ新任の教師なんで慣れないことも多いですけど⋯それよりも、もっと滝川先生と交流を深めていきたいので!」
⋯な、なんていい人なんだこの人は⋯!
僕なんかと仲良くなりたいなんて言ってくれて、嬉しいなぁ⋯
「えへへっ⋯ありがとうございます」
碧央は満面の笑みを和紗に向けそう言った。
「⋯うわ⋯」
「?⋯どうかしました?」
「い、いえ!なんでもないです。じゃあ俺はそろそろ授業の時間なので失礼します」
「あっ、色々とありがとうございました!」
「はいっ!」
保健室から去っていく和紗の背中を見送った碧央は
「まじか⋯可愛すぎだろあの人」
和紗がこんなことを言っているとは知る由もない。
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