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第16話 憧れてた「運命」

「まだ変性したてって、不安定なのかもな」  颯がそう言って、考え深げにオレを見つめる。  ……あ。なんか。クールな感じの颯は、前見てたまま。これは、対抗心なしに見れば、ひたすらカッコいいと思う……。 「落ち着いたら病院行った方がいいな。一緒に行くから」 「うん。……え?」 「ん?」 「一緒に行ってくれんの?」  そう聞いたオレに、颯は、「当たり前だろ」と。行くのが当然みたいな感じで応える。  ……なんか、ちょっと、嬉しい。のはなぜだろ。  考えながら、でもご飯が美味しいのでモリモリ食べて、ごちそうさま、と言ったら、先に食べ終わってた颯がオレのプレートを受け取って、そのまま片付けに行った。少しして戻ってきた颯が、何かをオレに差し出す。 「慧、これ」 「?? 何?」 「薬。……妊娠、しないように」 「あ、そっか。ありがと」  受け取ろうとしたら、颯が一回、薬を握り締めた。 「……飲みたい?」 「え?」  飲みたい? ……いや、飲まなきゃ、て感じ。 「……だって、妊娠したら困るし……?」 「――――……」  颯が薬を握り締めたまま、んーと腕組みをして考えている。 「……まあ。オレ達、学生だしな。……しかも今のままで妊娠て、やっぱり色々周りがうるさそうだし……」 「……颯???」 「慧は、飲みたい?」 「え。……逆に飲まなくて妊娠したらどーするの?」 「……籍入れるよな」 「え???」  颯の言葉、意味が分からない。すごくすごく、しばらくの間、考えるオレと、そのオレの次の言葉をじっと待っててくれてる颯。   「……えっと」 「ん」 「……なんかオレ、今はまともに考えられそうにないから。こんな状態で、妊娠したら困る、と思うから。……飲む」 「――――……」  じっと見つめられて。え、だめなの? ……ていうか、颯、オレと籍入れる気あるの? とかもうなんか色々良く分からないまま、見つめ返していると。 「……そうだよな。考える時間はいるよな」  颯は、仕方なさそうに頷いて、オレの手の平に薬をのせた。  ペットボトルの水を渡されて、オレは、薬を飲んだ。飲んでから、自分の喉を通って行った薬に、微妙な感覚。  ……妊娠。しないようになる薬を、自分が飲むなんて、思わなかった。  そっか。……オレ、このまま居たら、妊娠するかもしれないんだ。  なんだか、今までの自分が、急にすごい変化を遂げちゃった、すごい、不思議な気分。 「……颯、あの」 「ん?」 「――――……籍、いれるって何??」 「……妊娠したら、籍、いれるだろ」 「――――……えっと……」 「なあ……慧?」 「……?」 「運命の番って、知ってるか?」 「え。あ、うん。もちろん、知ってるよ」  なんなら、それっていいなあって、憧れてました。  もちろん、好きになった子と運命だったらいいなっていう、「好き」ありきの運命を。  本能と衝動だけの運命は要らない。……なんて、恥ずかしいから言わないけど。  

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