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第25話 運命の番の宣言

「慧さんですが……変性を起こしまして、すでに、第二の性は、αからΩに変わってらっしゃいます」  医者が、ゆっくりゆっくり落ち着いた口調で、そう言った。 「……は?」「え?」「慧?」  父と、母と、兄貴の声が同時に聞こえた。オレをめちゃくちゃ見てくる。  颯の方の皆さんは、静か。まあ、とりあえず、あちらには関係ないもんね。うん……。 「……えっと。……そう、いうことみたいで」  えへへ、と思わず笑いながらオレが言うと、三人は言葉を失って、オレを見つめている。  うう。ここからさらに、報告があるんだけど。  先生、もう、さっさと言っちゃってください!  オレが先生を見つめると、その気持ちが伝わったみたいで、んん、と咳払いの後。 「それから。こちらに居る、颯さんと慧さんは昨日番になられたということで、遺伝子検査も終えて、運命の番であることが、確定しました」  多分、とんでもない報告を二つも一緒にさせられた先生は、自分のことも落ちつけたいのか、必要以上にゆっくりと、話してるのだと思われる。  異様にゆっくりな説明の後。  今度は、颯の方の家族も何か言いながら。うちの家族は、さっきよりも何か言いながら。がたん、と立ち上がった。  椅子の音がうるさくて、何を言ってるのか、聞こえなかったけど。  オレと颯は、六人に囲まれて、顔を見合わせた。    皆が何かを言おうとした時。 「説明させてください」  颯が、静かな声で、そう言った。皆、とりあえず聞こうじゃないか、という雰囲気。  颯は、オレを一度見つめて、それから、囲んでる皆の顔を見回した。 「昨日、苦しそうな慧を学校で見かけて、家に連れ帰りました。最初はヒートをどうにかしてやりたいと思った。誰にも任せたくなかったし、放っておくこともできなかったからです。でも、途中で、運命だって感じた。……でも、それが間違いで、運命じゃなくてもいい、とも思ってました。α同士だった頃から、ずっと慧を意識してきた。そういうのも全部込みで、運命の番じゃなくても、オレ達は運命だって、オレは思ったから……番になりたいと、慧に言いました。番になることは、ふたり、合意の上です。相談なく、決めてしまったことは、悪かったと思っています。申し訳ありません」  颯の静かな声が、ものすごくシンと静まり返った部屋で響く。  こんな雰囲気の中で、整然と話す颯を尊敬。惚れなおす。……とか、あほなことを思っていたオレは、言い終わると同時に頭を下げた颯に合わせて、咄嗟に、頭を下げた。 「あの……オレも、ずっと颯を意識してて……Ωはびっくりしたけど……でも、昨日、颯に番になりたいって言われた時、オレもなりたいって本気で思って……でも、勝手に決めてすみませんでした!」    二人で頭を下げてから。 「でも」  颯が顔を上げたので、一緒に顔を上げると。 「オレには後悔はないし、慧にも今後もずっと、後悔させるつもりはないです」  オレを見つめたまま、昨日のセリフを、もう一度、言われて。  ……胸に、ハートの矢がストンと刺さるイメージ。痛い、胸。きゅうって、する。    心の中でうろたえていると、少しして、颯のお父さんが動いて、先生の方を振り返った。 「この二人が、運命の番だというのは、確定なんですか?」 「はい。もう確定してます」  先生の声に、誰も何も言わない。  少しして、また、颯のお父さんがオレと颯を順番に見た。  何て言われるのか。  心臓が痛すぎる。

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