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第31話 知らないこと

「どうしてこのテーブルって、四人掛けなの?」  ドキドキするので、別にどうでもいいことを質問してしまう。 「どうしてって?」 「オレんちにあったのは、二人用だったから。四人掛けって必要?」 「たまに誰か来るし、広い方がいいかなと思った、からかな」 「そっか」  そりゃそっか。うんうん。広い方が。……たまに誰か??  誰か、かぁ……。ふーん……。  何か間が持たず、ぐい、とカクテルを飲み干した。 「お前、強いの?」  クスクス笑いながら、颯がグラスにおかわりを注いでくれる。 「意外。弱そうなのに。……ていうか、オレら、酒飲むのも、初めてだな」  じっと見つめられて言われる。と。また緊張する。  ……つか、オレ。颯と、何話してたっけ。今まで。  ありがと、と言いながら、またグラスに口をつける。 「ちょっとは食べてから飲めよ。ほら」  笑いながら、皿に食べ物をのせてくれる。  ……こういうこと、してくれる奴なのか。ていうか、オレ。  ……颯のこと。ほぼ何も知らないのでは。  という事実に愕然とする。  そうだ、オレらって、ほんと、張り合ってばっかりで、成績やら体育やら、なんかくだらない言い合いばっかりしてて、普通の会話、したこと無いじゃんね。  ちゃんと普通に話したのって、先々週の金曜が初……っていうか、あれだって、変性とか番とか、全然普通の話じゃない。 「……なんかあれだな」 「ん?」 「慧とこうして二人きりでちゃんと話すの、初めてだよな」  同じこと、思ってた。 「……これで結婚してるとか、面白いよな」  クスクス笑う颯。  ……確かに。  …………ていうか。  良かったのかな、颯。  むく。と突然の不安。  あんなよく分からないヒートみたいなので一緒になって、あれよあれよと、運命とか言って……でも、お互いのこと、普通のこと、全然何もしらない。  好きな食べ物とか、好きな飲み物とか。好きな本とか映画とか、趣味とか。  今まで、どんなふうに誰とどんな話してきたんだろう。  颯が一緒に居る仲間って、そこまで知らない。クラス替えが毎年あったから、共通の友達は居るけど。先生たちがオレ達のことは敢えてバラしてるのかなと思うくらい、一度も一緒のクラスにならなかったから、どんなふうにクラスで過ごしてたのかとかも、知らない。  ていうか、知らないことしかなくない??  颯がのせてくれたものを食べながら、なんだかちーん、と沈み込みそうになりながら考えていると。 「……?」  急に立ち上がった颯が、オレの隣に腰かけた。 「なんか遠いから。隣がいい」 「え」  ドキドキするからやめてほしい……。  ていうか、オレ今ちょっと、早くも落ち込みかけているんですが。 「……慧?」 「――――……」  ふわ、と頬に触れられる。 「 ――――……」  キス、されてしまった。  キスされるの、あの日以来。 「ずっと、キスしたかったから」  くす、と瞳を細められると。  ……かあっと、赤くなるオレは。……何か病気かな。 「食べてるから、やだ」 「……ふ」  クスクス笑われると、ますます、熱い。なにこれ。やっぱ、病気みたい。

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