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第38話 きす、すき。

 唇、深く重なって、舌が口の中に、入ってきた。  舌の感触。熱い。ていうのが、一番。  ぞく、とお腹の奥の方が、反応する。  舌が触れ合って、絡まる。 「……ん、っ」  たまに少し離れてする息が、どんどん熱くなっていく。  薄く目を開けて、颯を見ると。伏せた睫毛に、瞼に、なんだかドキン、と震えて、カァッと体温が一気に上がった。  オレが中高で颯に絡んでた時。颯はわりとクールな感じで、ちょっと皮肉気な感じ。オレは、かっこつけやがってー、と思ってた気がする。でもなんか。  あの瞳が。今、オレとキスするために伏せられてて。  あの唇が、触れてる。舌。めちゃくちゃ、絡んでて。 「……んん……っ」  涙が滲む。  どうしよ。なんか。すごく、気持ちいい。  あんなに取り巻き、いたのに。……ってオレも居たけどな。うん。……でも、ほんと。颯を好きな奴は、いっぱい居て。その中にオレはツッコんでいってた訳だけど。……なにしてたんだ、ほんと。  ……でも、今は、取り巻きは誰も居ない、颯とオレだけの部屋で、二人きりで。  オレだけを見てくれてて……キスしてくれてるとか。  なんか、オレ、すごく嬉しいみたい。  どうしよ。 「……っ……ん……んん」  颯が熱くて、キスが熱っぽくて、つられて体温がどんどん上がってく感覚。  苦し気に声が漏れると、舌を絡めてた颯が少し離して、ふ、と笑う。 「少し離した時に、鼻で息してみな」  優しい声で言って、オレを見つめたまま、また唇を重ねてくる。 「……っん、ふ……」  鼻で……少し息を吸ってみる。なるほど。鼻で……。  え、オレこないだどうやってキスしてたんだろう。もう一生懸命過ぎて覚えてない。  す、と吸った瞬間、舌がぐい、と奥に入ってきて、上顎を舐められる。  ゾクン!とした感覚に、「んっ」と声が漏れる。 「……ふ、っ……ぅ、ぁ……っ」  何これ、なんでこんなとこ、こんな気持ちいの。  ……そういえば、こないだも気持ちよかったような……?  いやでもよく覚えてない。 「……ん、っ」  ながいこと、深いキスが繰り返されて、なんか足が抜けそうな初めての感覚。ぼんやりした視界は、自然と浮かんだ涙のせいだと思う。  後頭部を押さえつけていた手が少し緩んで、少しだけキスから離れる。 「――――オレとするキス、好き?」  濡れたみたいな綺麗な瞳に、じっと見つめられて。 「ん……きす、すき……」  浮かされるように、応えて。  数秒後、「はは、かわい」とか言いながら、オレを抱き締めてる颯の腕の中で、はっと気づく。  すっげーいま、ぼーっとしたまま好き、とか言っちゃった! ハズい!!! 「慧となら、ずっとキスしててもいいな。可愛い」  ……真っ赤になってるオレを見て、クスクス笑いながら追加で言ってくる颯は、絶対いじわるだと、思う。

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