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第49話「二週間」

「それって、慧がαの時も好きだったってこと?」 「慧がαのままなら、そのまま離れたと思うけど」  メンタル強すぎの昴の質問が続くと、颯はそう言って苦笑した。 「目の前で変性されたら、ほっとく選択肢はなかったし、オレはこれで良かったと思ってるけど?」  まだ何かあるか? みたいな顔で言いながら、オレの頭に優しくぽんぽんと手を置いた。  まあ当然、オレは、硬直だけど。 「……おめでと、颯」  ちょっと間をおいて、健人がオレを見ながらクスクス笑って、颯にそう言った。 「ああ。――――ありがと」  颯は、ふ、と微笑む。 「今度飲も」そう言った健人に、「了解」と応えて、それから、誠と昴にも視線を向けた。 「なんならそん時、なんでも答えるから」  颯はそんな風に言って笑うと、オレを見て、「気を付けて帰ってこいよ?」と言う。  うん、と頷くと。綺麗に微笑して、離れていった。  ……誠と昴と、オレが仲良いのも、ちゃんと分かってるんだなとぼんやり思う。  にしても。  しん。と静か。  ていうか、ここ、普通に昼時の食堂で。  人が増えてきた今となっては、かなりザワザワしてるはずの場所で。  いや現に、オレ達以外のところは、騒がしいと思うんだけど。  なんか、ここだけ、静か。  何か言って、この静けさを破れる誰かメンタル強い奴……。昴、今しゃべって、つか、ほぼお前のせいでこの空気な気もするんだから、何か言えー。と、完全人任せにして、昴を見ていたら。 「おーす、今日混んでんなー、食堂」 「よかった、皆居て。……あれ? なんで皆固まってんの?」  ものすごい微妙な雰囲気の中、後から現れた、何も知らない友達二人は鞄を置きながら、オレ達を見て、は? と怪訝な顔をした。  それに救われたというか、皆の空気が、ほわ、と解けた。 「いまなんかすごいもん見たんだよ」 「そうそうそう」  一人の声に皆が超同意をしてる。 「えー何見たの?」  救世主二人が、楽しそうに聞いてくると、またそこで皆が止まる。 「え、あれを、何て言えばいいんだ?」 「えーと……」 「なんだよ、早く言えよ」  催促されて、皆ちょっと待って、と言う。 「ああ、分かった」  誠が超身を乗り出して、そう言って、何々と待ってる皆に。 「颯が慧を溺愛してるっていう、衝撃シーンを見た」  楽しそうにそう言った誠に。 「ははっ何それ」 「どういう冗談?」  二人が同時にそんなことを言ったら、皆が、一気に二人に鋭い視線を向ける。 「「え? なに?」」  二人が固まってて。  オレも、なんといったらいいか分からず、んー、と固まってると。 「つか、冗談じゃねーから」 「マジだから」  皆が二人に畳みかけるようにそう言う。 「颯と慧、絶対無理って皆言ってたじゃん?」 「言ってた言ってた」 「てか、信じてない奴多いよな」  ……そうだったのか。  一応皆、そこらへん、オレにはあんまり言ってないんだな。  と、微妙な気の使われ方に、眉を寄せていると。 「多分、颯のあの感じ。あれ、絶対別れるとか無さそう」 「無いな」 「無い無い」  皆が、次々、そんなようなこと言い続けてる。 「颯が、慧の頭ぽんぽんしてるのとかさー……オレ幻覚かと思って」 「あ、オレもー」 「オレも―」  ……どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか良く分からないが。 「つか、お前ら、オレが番になったって言ってから二週間、そう思ってた訳ね」  むーどんだけだよ! とぷんぷんにふくれると、「あ、やべ」と、皆が咄嗟に零したような気がした。

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