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第48話 真っ白

「どしたの?」  オレが、辛うじて声を出して、聞くと。 「慧が見えたから。ちょっと用あって」 「うん、何?」 「――――つか……」  颯を見上げたオレを見て、颯はちょっと眉を顰めた。不意に額に触れられて、えっと硬直。 「熱でもある? 顔赤い」 「……っ元気……っ」  ぷるぷる小刻みに首を横に振ると、颯は額に当てた手を放しながら、ふっと瞳をゆるめてオレを見つめた。 「大丈夫ならいいけど。体調わるかったらすぐ連絡しろよな」 「……っ」  もはや声もなく、こくこく頷く。 「あ、そうだ。オレ、五限休講になったから」 「……あ、そなの?」 「先帰ってていいか?」  颯を見上げて、うん、と頷く。  すると、颯は、オレをまっすぐ見つめて、何を思ったのか、ふ、と笑った。 「なんか作って待っといてやるよ。何がいい?」 「え。何だろ……えっと……」 「昼何食べた?」 「天ぷら定食……」 「じゃあ天ぷら以外な」  クス、と笑われて、ぽけ、と颯を見つめる。  ……なんか、椅子に座った状態で、見上げる颯は。なんか。めちゃくちゃカッコいいな。なんて思いが、頭に浮かんでる。 「ありがと」 「ああ。じゃあな」  言いながら、ふと、周り中の視線にさっと目を走らせて、ん?と笑む。  ――――誰も何も言えないだろうと思った時。  昴が、「あのさ」と言い出した。 「男と付き合ってるのとか聞かなかったけど……慧とで良かったの?」  うわー。お前はほんと、メンタル強いよな……。  動じないっていうか、ほんと、感心する。  オレが昴を振り返った時に見えたのは、健人の面白そうな顔と、誠のちょっと心配そうな顔。それから他の皆は行く末を見守ってる感じみたい。固まってるし。 「良かった、っていうか……」  颯の声に、オレが再び振り返って、颯を見上げると。 「慧じゃない男は要らなかったから付き合ってない。――――つか、αん時でも慧が良かった。慧がαのままなら我慢したけど」  笑いを含んだ声で昴に向けて言って、最後、ちら、とオレを見る颯。  オレは、真っ白。  それは、そんな風に、いっぱいのオレの友達の前でも、言えるやつなのか。  ていうか、まわりは、颯の言葉を各自、自分なりに噛みしめてるところなんだと思う。多分、一瞬意味、分からないよね、颯のセリフ。静まり返っている。  オレは、真っ白になった後、もう止めることもできずに、ぼっと赤くなる。  やば、なんか……フェロモンとばしまくりそう。落ち着けーーオレ―ー。

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