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第59話 はずい
今なら。もう少し、言ってもいいかな。
笑ってるし。颯、普通に聞いてくれそうな気がする。
「颯……あのさ。過去のことは、もう、いいんだけどさ」
「うん?」
えーとこれ、なんて言えば。
数秒言い方に困った後。とりあえず、そのまま伝えてしまうことにした。どうせ、言う内容に変わりはないし。
「オレとする時……他の奴と比べんのはやだからな?」
「――――」
「前の奴の方が可愛かったとか。……よくわかんないけど、うま、かった? とか……そういうの思うのは、やだ」
言えば言う程、颯の瞬きが増える気がして。はっと我に返る。
何言ってんだ、オレ。やだって言っても……オレが慣れてなさすぎてへたくそとかだったら。咄嗟に颯がそう思っちゃうとしたら、それはしょうがないことなのかも。
うう。恥ずかしいこと言ったかも。
……また顔がどんどん発熱していく。
颯が、ものすごくきょとんとしてるから、余計。
でもこの際だから、もう、今気になってることは言ってしまおうと頑張ることにした。だってもうこんな機会ないかもだし、どうせだから最後まで言わせて……!
「オレ、初めてだから……じょうず、じゃないかも、だし。あと……元αだから、Ωとかと比べたら、華奢で可愛いとか、ないし……」
頑張ってそこまで言った瞬間、颯がクッと笑い出して、また口元に手を当てて隠すように。でも超笑ってる。
「笑うなよ……っ~~っ人が真剣に……」
手に触れたソファの上のクッションを颯との間にぶつけて、押しやろうとしていると、その手を掴まれた。
「馬鹿だな、慧」
クックッと笑いながらクッションをどかされ、組み敷かれた。
「比べても、一番可愛いのは、お前」
「!」
「じゃなきゃ番になってないし、結婚もしてない」
「――――……」
「別にセックスだけが可愛い訳じゃないからな? 家連れてくるって決めた時、まだ何もしてなかったけど……お前のこと可愛いと思ってたし」
「……っっもう、お前、マジで、はずい……!!」
どかされたクッションを再び掴もうとした手をとられて、顔の横でくくられる。
「オレとして、上手になって」
クスクス笑いながら、キスされる。
なんかいきなり、エロい感じのキス。
「はずい」から「気持ちいい」に簡単にシフトするオレに、颯は舌を絡めてくる。
「ん、ン」
しばらくたくさんキスされて。
そっと、唇が、離れた。
「……つか。お前、そんな可愛くて、よく今まで無事だったな」
唇の間で囁く颯に、何言ってんの、と返すより先に、唇を深く重ねられた。
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