73 / 165

第73話 今日の報告

 そこまで酔ってはないけど、ちょっとぽわぽわいい気分。 「少し酔ってる?」  あれ、バレてる。 「うん。気持ちイイ感じ」 「そか」  ふ、と笑う颯に、手を掴まれる。 「手ぇ、熱いな」  クスクス笑う颯の指はちょっとオレよりも冷たい。  すり、と撫でられて、手を繋いでると、気持ちいい。手を繋ぐの、嬉しい。 「何話してた? 楽しかった?」 「んー、なんかたくさん話したよ~。Ωってどんな感じかとか。色々」 「へえ?」 「ネットで調べるのとは違うね。なんかやっぱり、話せて良かった」 「そっか。良かったな」 「うん」  頷いて、あ、と思いついて、颯を見上げた。 「あ、そうだ。 あのね、フェロモンはダメだって。自分で出さないようにはできないんだって」  そう言ったら、颯は、ん、とオレをじっと見つめた。 「……それ、聞いたの?」 「うん、聞いた。何か、できることあるのかなぁと思って。例えばさ、集中したら、防げるとか。なんかこう……裏技みたいのないかなと思ったんだけど」 「……どうだって?」 「できないって」 「ん、そっか」  そう頷いてから、颯がふい、とオレと反対の方を向いて、なんか、逆の手で、口元に触れた。 「颯?」 「ん?」 「……笑ってる??」 「……んー」  諦めたみたいで、クスクス笑いながらこっちを向いて、オレを見て目を細める。 「できると思ってたのが、可愛くてさ」 「わかんないじゃん。できるかもしれないと思ったしさ。……ていうか、颯ってさ、ほんとよく、オレのこと可愛いって言うよね。全然良く分かんないんだけど」  首を傾げつつ、見上げると。 「慧って、オレからだけじゃなくて、なんか可愛いと思うけどな。可愛いって言われない?」 「…………」  ……Ωになってから、よく言われるようになったような。  なぜ?? 「今日、可愛いって言われなかったか?」 「……なんか言われた気もするけど、何の話の時かよく覚えてないや」 「ああ。言われたわけか……」  颯は、クスクス笑ってる。 「あっそうだ! 浮気とか、番、αは何人も作れるけど、Ωはできないって言ってたじゃん?」 「しにくいって言ったかな」 「うんうん。なんか、番以外のαの匂いがダメになるってだけで、相手がβとかなら、できるんだってー。なんか色々あるんだね?」 「――――……」 「……颯?」  なんか、颯が無言。  ……? 「ぁ」  ぱ、と颯を改めて見上げる。 「しないよ? 浮気」  じー、と見つめると。  颯は、なんか、ちょっと、何か言いたげな顔で、頷く。 「……わー。ちょっと可愛い、颯」  繋いでた手を、くいくいと引っぱる。 「今の話やだった?」 「――――……嬉しくはないな。あと可愛いって……」  複雑そうな顔。ていうか、オレにはいっぱい言うくせに。  と思いながらも、やっぱり可愛くて。  周りをきょろきょろ。歩道前方には人影なし。  くいくい引いて、近づいた頬に、ちゅ、とキスした。 「――――……」 「しないよ、浮気なんて」  まっすぐ見上げて、笑顔で言ってみたら。  颯は、ふっと、優しい顔で微笑む。  こんなので、ちょっと、ヤキモチみたいの、妬いてくれるんだ。  と。なんかとっても嬉しい。

ともだちにシェアしよう!