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第99話 颯出発
「……慧」
優しい声が聞こえて、ん、という自分の声も聞こえた。
「あ」
がば、と起き上がると、颯はもうすっかり着替えも済んで、出かける準備が終わってる雰囲気。
「ごめん、起きれなかった」
「大丈夫。つか、昨日結局無理させたのオレだし」
「――――……」
……確かにそうですね。うん。
一回じゃなかったし。
まあ。嫌じゃなかったから。ていうか、むしろ、幸せだったし。
「颯、ご飯は?」
「もう食べた。昨日買ったパン、テーブルにあるから」
「うん。ありがと」
なんかもう行くのかな、颯。
……ずっと感じていたそわそわ、わくわくが、めちゃくちゃ高まる。
颯が居なくなったら。
……巣作り……の前にご飯たべよっかな。
ごはん食べたら、ゆっくり。
「颯、パジャマは?」
「洗濯機入れた」
その答えに、わかったーと頷くと、颯はクスクス笑った。
「洗濯よろしくな?」
「うん任せろー」
颯が帰ってくるまでには、ちゃんと洗濯しとくからな!
と心の中で、返事をしながら、オレは立ちあがった。
「車で行くんだよな? 気を付けてね」
立ち上がりながらそう言うと、颯は、ん、と頷いた。
「雨結構強く降ってるみたいでさ。ゆっくり行くから、もう出る」
「あ、うん。分かった」
もう出るのか。
いよいよ巣作りできちゃうぞっていうわくわくと。
なんだか急に、いなくなっちゃうのが寂しいっていう気持ちが沸きあがってきて、かなり今、複雑。
「颯」
颯の側に立って、颯を見上げる。
すり、と頬に触れられて、顎を持ち上げられる。
ゆっくりゆっくり、キスされる。
「寂しかったら、電話してきていいよ。かけれる時に折り返すから」
クス、と笑われる。
「大丈夫。合宿忙しいだろうし。こっちは気にしないで」
「連絡してくれた方が嬉しいんだけど?」
苦笑いの颯に。
「じゃあ……少し連絡するかも。でも、邪魔したくないし。颯がかけれる時に、掛けてよ。オレ、家にいるからいつでも出られるし」
「まあ、そうだな。分かった」
ふ、と笑って、もう一度、ゆっくりキスされる。
「……慧にキスもできず、二泊三日とか、かなり地獄」
そんな颯の言い方に、ふ、と笑ってしまう。
「地獄まで言う?」
「マジで地獄だけど?」
苦笑しながら颯を見つめてたらふと思い出した。
「あっ、オレ、颯の推薦文、この二日で、書いとくからね」
「ああ。ん。よろしく」
「うん。任せて」
「それ、書いたら見せてくれる?」
「え。絶対絶対、やだけど」
「――――」
颯は、ぷ、と笑うと。言うと思った、と肩を揺らしている。
少しして笑いを収めた颯が、オレの頭をぽんぽん、と撫でた。
「じゃあ、行ってくる。寂しいと思うけど……泣くなよ?」
「泣かないし!」
焦って言って、べ、と舌を見せると。
颯は、またクスクス笑って、オレにもう一度キスをした。
鞄を持って、玄関へ。靴を履いて、オレを振り返る。
「じゃあな、慧」
「うん。ほんと運転気を付けろよな? 安全運転な?」
「ん。じゃあ。スマホ、側においといて。電話するから」
「うん。いってらっしゃい」
そう言って、颯は、出て行った。
……行ってらっしゃいって、送り出したの。
初めてもしれない。
いっつも一緒に出てるから。
そんな些細なことにちょっと感動しつつ。
颯の居ない二泊三日が始まった。
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