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第110話 色々遭遇
「慧くん、見た目少し変えたくなったら言ってね~! カッコいいけど可愛い、みたいなの目指そう~」
ふふ、と笑う紗良の言葉に、ありがと、と笑って、三人と別れた。
授業のある十号館に向かう途中。まだ少し時間あるなと、思って、ふと思い出した。イケメンコンテストの推薦文、提出に行こうかな。締め切りはまだだけど、早く出せば、早く掲示されるらしいし。颯のカッコいい写真も貰ってきたし。
急いで十号館の上、学祭の実行委員のところに出しに行って、そのまま授業行こ。
そう思って、階段を駆け上がっていく。
あと一階、そう思った時、その階段付近の廊下に、一人の男子学生。
スマホを弄って俯いてて、顔は見えないけど、何か目を引く。
……颯もだけど、この人も、なんか目立つな。
なんて思って素通りしながら目に映し、そのまま階段の上に視線を向けながら駆けあがった時。
「きゃ……!」
「ぅわ……!」
上から、駆け降りてきた女の子とぶつかりそうになって、一瞬、その子を支えた。までは良かった。無理な体制で支えた結果、ずる、と滑ったオレは。
上を向いた状態のまま、落下――――……。
うわ、死ん……。
「……だ……???」
想像した痛みのかわりに、もう少し柔らかいものにぶつかった、みたい。
「――――……っ……?」
恐る恐る、振り返ると。
さっき、見ながら通り過ぎた、人の、腕の中、みたい……。
「あぶ、ねー……」
どうやら、手すりを掴んで、うまくオレを落ちないように受け止めてくれたらしい。
「あ……ごめ、ん」
「いいから、ちょっと、自分で立って。重い……」
苦笑されて、もう一度、ごめん、と言って、離れた。
その時、上から、階段を下りてくる足音。
「美樹、待って」
そんな声とともに現れた、これまたなかなかのイケメン。……あれ、なんか見たこと、あるような……。高校一緒の奴かな。
「あ」
そいつも、オレを見て、一瞬固まったから、同じことを思ったのかも。
オレとぶつかりそうになった女の子は、そいつを振り仰いだ。
「……もう、行こ」
そう言った女の子は、オレの顔をあまり見ずに、頭だけ少しさげて、ごめんなさいと言うと、長い髪をさらさらなびかせて、階段を駆け降りて行った。一緒に居た男は、なぜかオレに少しだけ頭を下げて、女の子の後を降りていく。
なんとなく、見送った瞬間、え、と思った。
「え、美樹……?」
美樹って。あ。
あー。もしかして、あの子、颯の元カノ……。あ、だからオレの方、向かなかったのか。
そっか……。
さっきぶつかりそうになった時、至近距離で顔を見たけど。
……すっごい可愛い子だったな。良家のΩって言ってたから……イイとこのαに嫁ぐようにって育てられてるってことだよな。
んー。かなり可愛くて、ちょっとびっくり。
……あの子を振って、オレに来るって、颯って、良く分かんないな??って、いや、もちろん、来てくれて嬉しいんだけど。
うーん。
なんともちょっと気まずかったなと思って、ぼー、と消えた方向を見守ってしまっていると。
「何? あの子に気があるの?」
そんなことを聞いてくるのは。
オレを助けてくれた、男。
あ、ちゃんとお礼言わないと、と、振り返って真正面から向き合うと。
おお。
絶対αだなと、確信してしまう雰囲気の、美形。
別にときめくとかじゃ、全然ないけど、思わず見てしまうくらいではある。
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