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第111話 颯のライバル
「助けてくれてありがと。ほんとに助かった」
少し見上げる位置の顔を見ながら、そう言うと、そいつは「うん」と笑った。
「マジでびっくりした」
「だよね、ごめん」
「降ってくるのが男だから一瞬無理かなと思ったんだけど」
「それにしては、すっげーうまく捕まえてくれたよね」
「一応、武道叩き込まれてるから」
「そうなの?」
「そう。まあまあ役に立ったかな」
「まあまあっていうか……オレ、あのまま頭から落ちたら死んでたかも。ほんとにありがと」
「いえいえ」
イケメン過ぎてちょっと嫌味になりそうなくらいだけど、なんか、クスクス笑うと、結構いい感じ。
「さっきのあの子に気でもあんの? それで落ちたとか? 最後もすごい見てたし」
「あ、違うよ。落ちたのは、ただ向こうを支えたらオレが足滑っちゃっただけで……まあ、見てたのは、顔、知ってる子かなって……」
「あ、そうなの? 好きなのかと思った」
「ううん、オレ、結婚してるし」
なんとなく気があるとかじゃないよってアピールで、そう言いながら、指輪を見せると、そいつは、えっと目を見開いた。
「結婚してんの? 学生結婚?」
「うん。そんな驚く……まあ驚くか」
すげー素直に驚かれた、と思って、ははっ、と笑うと。
そいつは、あ! とオレを改めて見つめた。
「ん?」
「もしかして、去年のイケメンの一位の人と結婚してる人??」
「えー、何その覚え方? 意味わかんないんだけど……」
首を傾げて聞くと、そいつはクスクス笑った。
「オレ、今年のイケメンコンテストに出ることになって、友達が推薦書、書いてくれてさ、今それを上に出しに行ってて……さすがについてくの変だから ここで待ってたんだけど。さっき、去年のイケメンコンテストの優勝者の話をしてたら、なんかその人、結婚してるって言うから」
「あ、なるほど、それで、その聞き方……」
「顔は見たことあるけど、かなり有名なαの人だよね。……って、てことは……先輩?? 思いっきり タメ語で喋ってた」
苦笑いのそいつに、オレは「別にいいけど」と笑ってしまう。
「オレ、|三条 匠《サンジョウ タクミ》です。先輩は、神宮司……?」
「うん。神宮司 慧だよ。よろしく」
「匠でいいですよ」
気安くそう言って笑う。
「オレ達、また会うかな?」
クスクス笑って答えると、「会ったら呼んでください」と笑う。
「分かった、匠、ね」
そう言うと、じっと見つめられる。
「神宮司さんって、αですよね。……ってことは先輩って」
「うん。Ωだよ」
「……なんかすっげーαっぽいですね」
なんだか首を傾げて言う匠に、うんまあ、と苦笑い。
「あ、すみません。変なこと言って」
思わず出ちゃったみたいな顔で、ちょっと困ってるので、オレは首を横に振った。
「ついこないだまでαだったから。いいよ全然」
「え。そうなんですか? え、いつまで?」
「うんと……1か月くらい前? そういうのは噂になってないの?」
「去年の優勝者の話になったら、結婚したらしいよーっていう話だけで」
「なるほど」
そっか、まだ、一つ下には、詳しい話は飛ばないのか。
……まあ接点ないもんな。颯もオレも、一個下に絡むことあんまりないし。
「でも学生結婚した人が居るっていうのは、結構聞きます」
「そうなんだ」
まあ、またコンテストに出たら、もっと有名になっちゃって、噂になりそうだけど。
「……ていうか、先輩って、色々興味深いですね」
「え、何、興味深いって」
「だって、結婚聞いたのも一か月くらい前だったし……変性してすぐ結婚てことでしょ? なんかすごいです」
「すごいかな……?」
はは、と笑って匠を見た瞬間。
「あ。一年にいる、超美形のαって、匠のこと??」
「……そんな話があるんですか?」
「うん。そういう人が入ったって聞いた」
「オレのことか分かんないですけど」
「そっか。……でもなんかそんな気、するけど」
こんなルックスの人、そんなにほいほい居ない気がする。
うーん。そっか。
……てことは、颯のライバルかぁ。
途端にちょっぴりライバル視してしまう。
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