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第112話 よく考えると。

「あ」  その時、自分が何をしに上の階に向かっていたかを思い出した。落ちかけたせいですっかり忘れていた。 「そうだ。オレも、出しに行かないと」 「出すって?」  不思議そうな顔の匠を少し見上げて、ふふ、と笑ってしまう。 「オレ、颯をエントリーしにいくとこだったんだよね」 「あ、やっぱりまた、出るんですか?」 「ん、なんか、部室が欲しいんだって」 「え、理由、部室がメインなんですか? コンテストの優勝がおまけみたいな」 「どうだろ、そこは分かんないけど。去年もサークルの先輩に頼まれてるから出たみたい」 「えー……それに負けんの悔しいなぁ……」  そう言った後、匠は、オレを見て、クスクス笑った。 「っていうか、先輩、神宮司さんを推薦するんですか?」 「うん」 「旦那さんをイケメンコンテストに推薦するって、なんかすごいですね」 「……まあ。うん。ていうか、そのサークルの先輩達が推薦しても良かったんだけど、オレが書くってつい言っちゃって……」 「へー。旦那さん、大好きなんですね」  不意の言葉に、匠をぱっと見上げてしまう。 「べっ……べつに……」  照れまくりで否定しかけて、でも、違うっていうのもなんだかなと、思って、少し俯く。 「……まあ。そう、かも、だけど……」 「別にって言いながら、認めちゃうんですね」 「……だって、違くはないし……」 「そんなに、めちゃくちゃ大好きなんですか?」 「……っそんな聞き方しないでよ、すげーハズいじゃん……!」  うろたえてると、余計、笑われてる気がする。  と、その時、上から何人かの話し声が下りてくる。 「あ、匠ーお待たせ―」 「出してきたよ」  男女四人。匠の推薦しにいった人達かぁと思って黙っていると、「友達?」と聞かれながら、匠と一緒に囲われた。 「今ここで知り合って。先輩だよ」  匠がそう言って、オレをなんとなく紹介すると、あ、どうも、と軽いお辞儀をされたので、オレも、ぺこ、と頭を下げた。 「あ。ね、推薦出すのって時間かかる?」  出してきたよと言ってた男に、目を合わせてそう聞くと。 「あ、行くんですか? そう、ですね、十分位はかかるかも、です」 「そうなんだ……」  時計を見る。今日はもう間に合わなそうだな……。 「もう今日はやめとこうかな。明日のお昼に出すことにする」 「そうですね」  匠も時計を見て頷いている。 「今の時点で四人出てるみたいだった。匠入れて五人」  その言葉に、ああ、と匠が笑う。 「そうなんだ。てか、去年のナンバーワン、今年も出るんだって」 「えーそうなの? あの人、強敵だよな」 「な、しかも、部室欲しいからって出るらしい……ね、先輩?」  オレを見て、クスクス笑いながら言った匠に、友達らはオレを見た。 「先輩って、去年ナンバーワンの人の推薦しにいくんですか?」 「うん、そう」  頷くと、匠が「この人、奥さんだって」と付け足した。 「ん? 何が?」  匠の言葉に、そこにいた女子二人、男子二人は、全員ものすごく、不思議そうな顔。 「神宮寺 慧先輩。ナンバーワンの神宮司先輩の奥さんなんだって」 「えー??」 「マジですか?」 「え、Ωってことですか??」  オレに詰め寄ってくるのを見て、匠はまた面白そうにクスクス笑ってる。まあそこは事実だからと、頷く。 「うん、そう。オレはΩで、颯の結婚相手だよ」 「え、ということは、結婚相手の推薦を、奥さんがしちゃうんですか?」    一人の女の子が、早くもそれに気づいてそう言うと、もう一人の女子と一緒に、きゃーきゃーと喜んでいる。 「えー、先輩、可愛いですねー」 「旦那様を推薦しちゃうなんて」 「え」  会ったばかりの後輩の女子にまで、可愛い呼ばわりされてしまって、咄嗟に言葉が出てこない。

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