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第116話 颯の匂いだけ

 匂いのことも気になりながらも、とりあえず聞かれたことに「ううん」と首を振った。 「落ちそうになって助けてもらったところで、多分、孝紀って奴が来て……ごめんなさいって言って走って行ったから、全然話したりはしてない」 「それ、昼休みって言ったっけ?」 「うん」 「二人とも特に言ってなかったな……というか、午後はあの二人とは話してないな」 「そうなんだ……あ、だからそのせいで、オレまだ応募できてないから。明日出してくるね」 「ん。分かった。よろしくな」 「うん」  頷くオレに、ふ、と笑う颯が唇にキスしてきた。  触れた唇が深く合わさってきて、んん? と見上げると、すぐに舌が入ってきて、ぎゅっと瞳を閉じる。 「……ン……ん、……っふ……?」  あれれ。  お風呂でこんなふうなキス、されるの。  ……最初に入った時、以来かも。  なんて思いながらも、気持ちよくて、頭の中が、トロトロしてくるのが分かる。 「……ン……」  カッコいいな。颯。  潤んでる瞳で、うすく颯を見つめて、キスに応える。 「……はや、て」  呼ぶと、颯が気づいて、オレを見つめる。 「のぼせそう?」  優しい聞き方に、ふ、と微笑んでしまう。颯の頬に、手を伸ばして、ちょっと触れてみる。 「ううん。平気。……もっと?」  聞いたオレに、颯は一瞬固まって、それから、苦笑。 「――――もっとしていい?」  低い、優しい声で囁かれて、そのまま、唇が重なってくる。うんうん、と小さく頷いて、颯の舌を受け入れる。 「ん、ン……」  颯のキスは、優しくて、甘くて、でも激しくて、たまに苦しい。  ……どんなのでも、好きだけど。 「……ん、ふ……っぁ」  深く重ねてキスしながら、颯の指が耳をくすぐると、ゾクッとしたものが体を走って震える。  オレが、くすぐったがりだからなのか、颯の触り方が、なんかヤバいのか、分かんないけど。いったん、ゾクゾクのスイッチが入ると、何されても、気持ちよくてヤバい。 「……ん、っんん……」  舌が絡んで、もうそれだけで感覚ヤバいのに。耳から首筋を滑った颯の手が、胸に触れてなぞり、乳首を引っ掻く。 「や……」  びくん、と震えて、思わず離した唇。びっくりして見開いた目を見つめられて見つめ返すと、ふ、と颯は苦笑い。 「このままだと最後までするけど」 「……ん。いい、けど」  別に、嫌な訳じゃない。  ……丸見えとか、ほんと恥ずかしいけど。  オレも丸見えだけど、颯のことも見えるし。   あ、だから余計、恥ずかしいのかも?  いいと言ったオレを見て、颯は少し考えてから、ぷに、とオレの頬をつまんだ。 「やっぱりベッドにいこ」  颯がそう言うので、オレは、うん、と頷く。  キスは離されて、ぎゅ、と抱き締められる。  熱くなりかけてた体は、途中だったので、なんとか収まるけど。  ……やっぱり気になるから、先に聞いてしまおう。オレ何もやましくないし。うん。 「なぁ、颯?」 「ん?」 「あの、オレ……今日、変な匂いした?」  言うと、颯はちょっと不思議そうな顔で、オレを見た。  「昴がね、なんか匂うって。もしかしたら、あの、支えてもらった時かなって?」 「ああ、昴か……。慧は何か匂った?」 「ううん。なんも」  そう言って首を振ると、オレを見つめた颯は、ふ、と笑い出した。 「慧は、オレの匂いは、分かる?」 「うん。分かる」 「どういう時、分かる?」 「ん……えっと」  抱かれてる時、かな。あと、颯がそういう気分になってそうな時とか……あと、オレからフェロモン出てるなって時とか……。  うっわ。どれも言うの、すげー恥ずいんだけど。   「あの……」  ぼぼぼ。赤くなってると思うオレの頬に触れて上向かせると、颯は笑う。 「もういいや、分かった」  言いながら、ちゅ、と頬にキスされる。 「オレの匂いだけが分かるのって――――」 「……?」   「やっぱ、死ぬほど可愛い」 「――――……」 「ああ、別にこの先、他の奴の匂いが分かるようになっても、可愛いけどな?」  付け足して言ってから、颯はクスクス笑う。  死ぬほど可愛いとか。  ……颯に言われると。  やっぱり、もうなんか、死ぬほど嬉しいって、反射的に感じる。  オレはたぶん、皆の匂いが分かるようになったとしても、颯のが好きなんだろうなあって。  根拠もないのに強く思う。  

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