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第120話 突然言えた。

 教授が来たので話すのは終わり、授業開始。  授業を聞きながらだけど、今の会話を思い起こす。  ……昨日の颯、嫉妬とかしてるっぽくはなかった。  優しかったし。笑顔だったし。  でも皆が言う感じだと、きっと、知らないαの匂いに、嫌だなって思ったってこと、だよね。  オレだって、颯が、他のΩの匂いなんかつけてきたら、絶対やだし。  ……颯がそれに気づいてなかったとしても、そんなの絶対やだと思うし。  逆の立場だったら、聞かずに、やりすごすことなんて、出来ない気がする。  颯は、オレが颯の匂いしか分かんないのが可愛いって言ってくれてた。  オレが、αの匂いに気づいてもなくて、颯のだけが分かるって、言ったから、きっとオレのこと。……多分許してくれて、何も言わないでくれて。でも、相手のαにだけ牽制するために、そうしたんだ。  ……でもって、そのことで、心配までして、一人になるなら呼んで、とか。  そんな心配してたってことは、オレに匂いつけたこと、ちょっと後悔してたりとか、したりするのかな……。  オレが今、颯の匂いをめちゃくちゃさせて歩いてるのは……。マーキングされてるΩってことになるのかなって、結構ハズイ気もするけど。でも、なんか、それだけ、オレのこと……好き、なのかなって、都合のいいことも思っちゃったりすると。やっぱり嬉しいというか。  ……でもな。  なんかちょっと――――……。 「――――……」  そっとスマホを出して、前にいる健人の背中に隠して颯へのメッセージ。 「一限から二限行く時、どこ通る?」そう聞いた。  授業中だから見ないかなあと思ったら、すぐ既読がついて「三号館から四号館。何で?」とすぐ返ってきた。 「オレも四号館だから入り口で会える? 一限終わったらすぐ行くから」と続けて聞くと「いいよ」と即、返信がくる。  約束が終わるとスマホをしまって、授業に集中。  一限が終わると同時に、立ち上がった。 「慧?」 「ちょっと先に四号館行ってる!」 「お前ひとりになるなって言われたんだろ?」  昴の言葉に、「四号館まで人居るし、颯と会うから平気。教室でまたね!」と返して、教室を急ぎ足で出て、階段を駆け降りた。  ダッシュで四号館まで走っていくと、入り口に颯の姿。 「颯っ」  駆け寄ったら不思議そうな表情。 「慧? どうし――――」 「こっち、来て?」  颯を引いて、四号館に入り、小さめのゼミ室が並んでる教室を抜けて、少し奥の、電気のついてない部屋のドアを開けた。  中に入ってドアを閉めると、颯にドアの前に立ってもらって向こうからすぐあかないように、寄りかかってもらった。 「颯、オレね」  そう言った時、颯の手が、オレの頬に触れた。 「慧、もしかして、怒ってる?」 「え?」 「周りにバレたよな?」 「あ。颯の匂い?」 「そう。お前は気づいてないっぽかったけど、周りは気づくだろ。勝手にそんなことして、悪かったと思って――――」  オレは、颯の頬に触れて、引き寄せて、唇を重ねた。 「……慧?」  颯がちょっとびっくりした顔でオレを見てる。  ……まあそうだよね。急に呼び出して、急にこんなとこ連れ込んで、急にキス、なんかしたら。驚くよね。 「……あの、オレっ……」 「ん……?」 「颯のこと、好き、だから……!」 「――――……」  もっとびっくりされた。  こんなに唐突に自分から出た、ずっと言えなかった言葉に、かあっと、顔に血が上るけど。 「ごめん、昨日颯に、やな思い、させて。気付かなかったとは言っても……ごめん。オレが、怒るとこじゃないよ、ほんとは、颯が怒ってもいいとこ、だよ」  颯は何も言わず、オレをじっと見つめている。 「でも、オレ、颯のことが……好き、だから。これから先、何かの事故とかで、オレから、誰の匂いがしても、関係ないから」 「――――……」 「昨日、怒んないで、優しくしてくれて、ありがと。オレ、全然怒ってないし、勝手なこととかじゃないから」  なんだかとっても真剣な顔で、まっすぐ見つめてくる瞳が。  なんか好きすぎて。 「颯の匂い、つけてくれていいから。ていうか……颯の匂い振りまいて歩いてるの、ちょっとハズいけど……でも、なんか、嬉しい気もする、し」  良かった、会いに来て。  怒ってる? なんて、颯から出るってことは、絶対颯も、気にしてたんだ。  言いに来て、良かった。  ……なんか勢いで、好きって、言えたし。いっせきにちょ……。  不意に颯に抱き寄せられて、え、と思った瞬間、キスされた。 「ん……っ」  瞬き、繰り返してたけど、キスが強くて、すぐにぎゅっと目を閉じる。  完全に抱き込まれてしまって、動けない。

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