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第122話 深呼吸
少しだけ離れて、オレは颯を見上げた。
「颯、オレ今日、昨日のαに会うと思う。エントリー出しに行くとこで、多分。時間待ち合わせてはないから、会わないかもだけど」
「オレも行こうか?」
「んー……でも……」
少し俯いて考えてから、颯を見上げる。
「こういう時、颯にいちいち出てきてもらうのもなんか変な気がしない? あいつがどういうつもりか分かんないから昴には一緒に行ってもらうけど……でもオレ、自分でちゃんと聞いてくるから。あとちょっと文句言ってくる!」
そう言うと、颯は、ふ、と笑んだ。
「分かった――――確かにいちいち出てくのも、だな……」
「ん。大丈夫。ちゃんと聞いてくるからね。てことで授業行こっか」
「慧」
「ん? わ?」
ぎゅ、と最後に一度抱き締められて、頭を撫でられた。
……颯が頭撫でてくれるの、嬉しい。
「ありがとな、来てくれて」
「ううん。颯、すぐスマホ見てくれてよかった」
そう言ったら、颯は、当然、みたいな顔でオレを見た。
「慧からのは分かるようにしてるから。ヒートとかのこともあるし」
「…………」
……じーん。ちょっと感動で、返事がとっさに出てこない。
前に言ってたけど、ほんとにそのまま、ちゃんとそうしてくれてたんだ。
と思うと。すごく嬉しい。
「ありがと、颯」
「ん」
なんだか見つめ合ってると。
……引き寄せられちゃいそうになる。
「ダメだな、なんか」
「ん? ダメって?」
「すぐ抱き締めたくなる」
困ったように言って、はー、とため息をついた颯が、ちょっとオレから視線を逸らすと。
……キュン病が、重病になって、再発。
というか、再発って言うか、もうずっとなんだけど。
オレの中の気持ち、キュン、以外の何の言葉でも表せないんだよ……。
「颯……」
思わず近寄って行って、ぎゅ、と一回くっつく。名残惜しいけど、頑張って、ぱっと離れた。
「行こ。ギリギリ遅刻かも」
部屋の時計を見ながらオレが言うと、颯は、はー、と珍しくため息をついた。
「颯?」
「なんで抱き付くの」
「……え。なんか。ちょっとだけ」
そう言うと、颯は、ふ、と笑って。
「じゃあオレも」
そう言って、オレを抱き寄せると。また唇が触れてくる。
笑みを浮かべた唇が近づいてくる間と、触れた瞬間。
またキュンてして、心臓とまりそうな気持ち……。
で。
また少しの間キスされて。オレ達はなんだかとっても名残惜しく別れて、それぞれの教室に向かった。
教室をのぞくと、教授来てた。まだ雑談タイムっぽくてざわざわしてて助かった。
ヤバい。颯は大丈夫だったかな、なんて思いながら、大きな教室なので後ろの出入り口からそろそろ入って、後ろの方に座ってた三人の近くに座る。
気づいた三人が、オレを見て、それから。
一斉に眉を寄せて、はー、とため息をついた。
「ますますひどくなってるんだけど」
「あと慧、色気まき散らすな」
誠と昴にしかめっ面でこそこそと言われ、隣で健人が苦笑いしてる。
「……っ」
さっき別れ際、颯に、シャツのボタンを上まで閉められた。
こんな上までボタンとめる奴、居ないよーと抵抗したけど、しばらく開けるな、と釘を刺されたんだけど。
「何してきた? 話してきただけじゃないだろ」
呆れた昴の言葉に、何して……と考えた瞬間、真っ赤になったと思う。
三人のめちゃくちゃ大きなため息。
とりあえず授業中に落ち着け、と昴に言われて、ん、と俯いた。
深呼吸深呼吸――――。
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