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第133話 張り合いたい?

 ギシ、という音で、ふと気付いた。目を開けようとした時、影が出来て、唇に柔らかいものが触れる。冷たい液体が流れてきたのを、こく、と飲んで、ゆっくり目を開けると、颯が微笑んだ。 「平気?」  優しい声。 「ん……」  起き上がると、「飲んで」と、ペットボトルを渡された。 「ありがと」  出した声が掠れる。……さっき、オレ、めちゃくちゃ声出してたもんな。うう。ちょっとハズイ。 「……色っぽいな。掠れた声」  半裸の颯がクスクス笑いながら言って、すぐ隣に座り、オレの頭に触れる。 「また無理させたかも」  優しく撫でる颯を見て、ペットボトルの蓋を閉めた。 「……シてって言ったし……オレ」  かなり恥ずかしいけど事実だしと思ってそう言うと、クスッと笑った颯が頬に触れて、また唇を重ねてくる。優しいキスが少し触れて、すぐに離れた。 「オレを煽るの、ほんと天才な?」  クスクス笑う颯に頬を撫でられて、そんな風に言われると、言葉が出ない。しばらく黙ったまま、颯を見つめていると。 「そういえば、今日帰ったら何か話したいって言ってたよな?」 「……あ、そうだった。あのさ、颯」 「ん?」 「匠なんだけど……あの、一年のα」 「ん」  じっと見つめられる。 「昼間のあれじゃ良く分かんなかったと思うんだけど……颯の反応が知りたかったんだって。颯が怒るような人なら、コンテスト勝てるかなあとか言ってて……でも実際は、オレには怒んなくてフェロモンで牽制する、みたいなことを颯がしたから……勝てないって思ったみたい。良く分かんないけど、颯のフェロモンてやばいの? 会った後は怖いとかも言ってた」  やばいか? と颯は苦笑して、オレの頬をぷに、とつまんだ。   「慧も怖かった?」 「ううん。全然」 「――――……」  答えると、颯はふ、と笑って、オレを抱き寄せた。 「あ、だからさ。とにかく、勝てる気がしないから颯とは戦いたくないって言って、エントリーは棄権するって」 「……へえ。そうなんだ」 「負ける戦いはしたくないんだって。颯が殿堂入りしたら、来年頑張るってさ」  ふうん、と颯がクスクス笑う。 「結果が決まってる訳じゃないのにな」 「でも、颯が勝つと思うよ」 「――そう?」 「うん。絶対」  ふふ、と笑って見上げると、ちゅと頬にキスされる。 「それと……家で話したかったのは、こっちなんだけど……」 「ん?」  至近距離で見つめられる。 「なんか、オレもエントリーされてるんだって。誰かの推薦で」 「……へえ、そうなんだ」  面白そうに颯が笑う。 「夫夫でとか騒がれそうだし、面白がられそうだからさ、絶対辞退しようと思ってるんだけど。……それで、ここからは、オレの予想なんだけど」 「ん?」 「……昨日ね、実行委員の部屋がある階段から、颯の元カノが下りてきたって言ったじゃん?」 「ああ……」  頷いてからすぐ気づいたみたいで、ふ、とオレを見つめ直す。 「それって、美樹が慧を推薦したと思うってこと?」 「分かんない。ただ、昨日、あの子が下りてきた後、匠を推薦した友達が下りてきて、それで今日オレが颯をエントリーしてさ。委員の人に、エントリーしてる人を聞いてみたら、ちょうどオレのエントリーは匠の前だったみたいで……っていうことだけしか分かんない」 「ふうん……」 「昨日会ったのは何か別の用で、エントリーは関係ないかもしれないし……特に、颯に、確かめてほしいとかじゃないんだけど。そういうことは、あったよってことだけ言っとく」 「ん……」  少し頷いてから、颯はオレを見て、少し間をおいてから。 「昨日も今日も、あの二人とは、話してない。周りにはいるけど、目が合わないというか……少し避けてる気もする、ってのは、言われてみるとオレも感じるかな」 「――――……」 「なにか思ってエントリーしたら気まずくなって、オレと話ができないのかもなとは思う……まあ、それも、勝手な想像だけど」 「……んん……? 分かんないね……」  オレは首を傾げた。 「もし、そうだとして、何でオレを推薦したりするんだろ。理由がないと思うんだけど」 「まあ推薦は自由だし、それを慧が受けるかどうかも自由だからな」 「ん。そだね」 「ただそれでオレと気まずくなってるなら、話すかもしれない……けど、分からないな」 「ん……任せる」  オレが頷くと、颯は、くす、と笑った。 「でもオレは、慧と戦ってもいいけど。負けても勝っても、どっちでも盛り上がるだろうし」 「えー? 嘘だろ。やだよー」 「張り合うこと無くなってたしな? たまにはいいんじゃないか?」  クスクス笑う颯が、本気なのかどうか分かんないけど。 「オレは、颯がダントツで勝つのを、ただ楽しく応援するから」  絶対やだ、と首を振ってると、颯は、ふと目を細めて、オレの頬に触れた。 「昔はあんなに張り合ってたのに」 「え。……颯、オレと張り合いたいの?」 「ん? ……いや」  クスクス笑って、颯は、オレにキスをした。 「あれも面白かったけど……」 「――――」 「今は、可愛がってたいほうが強いから、張り合わなくてもいいかな」 「――――……っ」  至近距離で言われる。意味が分かった瞬間、また真っ赤になったオレを見て、颯がふ、とまた笑う。 「もー、からかうなよ!!」  言うと、クスクス笑う颯に、またキスされる。 「可愛いから笑っちゃうけどな。からかってる訳じゃないよ」  抱き寄せられて、そんな風に言われると。もはや何も言えない。  

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