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第136話 オレってば。

「慣れたもんって言われるのはなんか……」  苦笑してると、昴がふ、と息をつく。 「とにかく、向こうが本当に推薦したなら、何考えてんのか聞きたいけど、オレは。今回のはそういうコンテストだからいいけど、そうやってこれからもお前にちょっかい出すつもりなら……」 「つもりなら、何?」  なんか不穏な気配に、昴を見つめると、少し黙ってから昴は、いや、と苦笑い。 「どうするってことはないけど……まあとにかく一回、どういうつもりか聞くのもありかなとは思う。エスカレートしてもめんどいだろ」 「うーん……エスカレートなんてするかなあ……」  どうだろうと悩んでるオレに、匠が笑った。 「なんか、昴先輩って、慧先輩のナイトみたいですね」  ……ナイト?  「連絡先聞いた時も思ったんですけどね。……はは。面白いなー。神宮寺先輩って、昴先輩に嫉妬しないんですか?」  クスクス楽しそうな匠に、さっきちょっと見直したのはもう無し、と密かに思うオレ。  昴は匠に視線を向けると、は、と可笑しそうに笑った。 「ナイトとか笑える。ただ、そういうの他にも何人か居るからさ。オレだけじゃねーから平気」  予想外の昴の発言に「えっ?」と顔を見てると、「慧先輩は自覚無さそうで……おもしろ」と、匠はなんだかもう可笑しくてしょうがないという感じで笑ってる。  なんなんだもう。  ていうか、昴、今の何。確かに昴には特に、色々お世話かけてる気はするのだけど、ナイトが他にも何人かって……と思って昴を見つめると、気付いた昴は苦笑しながら、「こっちの話より、元カノの美樹、だろ。そのままでいいのか?」と言ってくる。  そのままでいいのかって言われても……。色々考えて、オレは、昴を見つめ返した。 「オレがすることはないかな。……颯がね、一昨日からその二人と話してないんだって。目が合わないって。だからもしかしたら、何か思ってエントリーして、気まずくなってるのかもって言ってたけど……それでも、向こうから言ってこないなら何もしないみたい」 「あーそうなんだ。へー……じゃあ、慧が動く必要はないな。お前は、さっさと辞退しますって言えば終わりか」 「うん。だよね。そうする。颯の友達だから、颯に任せるよ」 「えーそうなんですか? つまんない」  ふ、と笑いながら言う匠に、つまんないじゃないし、とオレは苦笑い。 「じゃあ帰るか」 「うん」  昴に頷いて、席から立ち上がる。匠も立ち上がり、歩き出しながら話しかけてくる。 「先輩は、いつ辞退しに行くんですか?」 「んー明日行こうかなぁ」 「ついて行ってあげましょうか」 「いらないよ。何でついてくんの」 「今日オレ手続きしてきたんで」 「できるってば」  そんなやりとりをしていたら、昴が、笑いながら一言。 「お前こそ、あんまり慧にはりついてると、颯に狙われるぞ」 「え゛。それはちょっと……ちょっとっていうか、マジで、勘弁です」  すごく嫌そうな顔になった匠を振り返りながら、オレは、教室のドアを開けた。 「なんか匠、颯のこと、怖がりすぎだよ? そんな怖くないよ」 「先輩は、鈍すぎるから、そのことについてオレになにも言わないでもらえます、か――」 「ん?」  言いながら、変な沈黙の匠。何だろうと匠を見つめて、その視線の先に目を向けると、そこには――階段から降りてきた、美樹ちゃんと孝紀。  うわ、と思った。なんとなくモヤモヤと頭の中に居た二人と、ばっちり遭遇。 「あ。の」  とっさに。話しかけてしまった。 「……オレを推薦、した……?」  言った瞬間、周りの空気が、固まった気がする。  オレのセリフとともに「あ、バカ」という昴の声が聞こえて。その、横でなるべく静かに、でも確実に吹き出してる匠の気配を感じた。    分かってる。  ……何もしない、動かないって言ったのに、オレってば……。  もう、目の前の二人が固まってるのが、オレの質問への答えな気がする。

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