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第137話 二人で

 昴がとっさに口にしたけど。  ……バカだなと思う。オレも、自分のこと。  颯は言わないって言ってた。昴もそれなら辞退すればいいって言ってたし。  オレもそう思ってた。でも、顔を見たら。  聞いちゃってた。  ……颯と話せなくなってたり。気まずくなってたり。  そんなくらいなら、思ってること話しちゃった方がいいのにって少し思ってたのが、とっさに出ちゃったのかも。  聞いて、違うって言うなら、もうそれでいいし。  本当にそうで認めるなら。そのことで颯と気まずいなら、話した方がいい。  颯に何も聞かずにオレが言っていいのかという疑問は、言った瞬間は消えてた。だから、それはバカだとは思うんだけど。  でも。  ……うやむやにしないほうがいいんじゃないかと思う自分がいたから、もうこうなったら、しょうがない気がする。 「美樹ちゃんて、呼んでもいい? 孝紀も、呼び捨てでいい?」 「――――」  美樹ちゃんはオレを見て、ちょっと、む、としたけど。少し間をおいてから小さく頷いた。孝紀も美樹ちゃんを見てから、オレを見つめて頷く。 「少し、話したいんだけど、いい?」  聞くと、美樹ちゃんは孝紀を見上げて、孝紀も美樹ちゃんを見つめる。二人は少し視線を合わせていたけど、小さく頷き合ってから、オレを見て頷いた。  結局、今出たばかりの教室に、美樹ちゃんと孝紀も入れて、皆でいったん戻る。少し中に進んで、ドアが閉まったところで振り返って、美樹ちゃんを振り返って、少し顔を見合った。   「美樹ちゃんから、何か言いたいこと……ある?」  美樹ちゃんに、そう聞いたけど、しばらく無言。  何か言いたそうな口元なんだけれど、でも、言えないみたい。  そこで、ふと気付いた。 「あのさ、オレ、美樹ちゃんと二人で話したいかも……」  皆に言うと、入り口のところで止まってスマホをポケットから出していた昴は、オレを見て、苦笑した。 「颯は呼ばなくていい? どうしようかと思ってたんだけど」 「んと……よく考えたら、推薦されたのオレだし、オレが話してみてもいいのかなと思って。だから、颯、電話してくれてもいいけど、颯がいいなら、来なくてもいいかなって思う」 「あー……おっけ。分かった。孝紀、だよな? お前は、あの二人で話させること、オッケイ?」  昴が孝紀に聞くと、孝紀は美樹ちゃんに視線を向けた。  美樹ちゃんは少し見つめ返した後、少し唇を噛んで、そのまま頷いた。 「じゃあ、オレ達は外に出てる」  昴がそう言うと、孝紀と匠もゆっくり歩いて、部屋の外に出ていく。 「あ、昴」 「ん?」 「……颯がもし来ても、入れないで?」 「――――」  昴はオレを見て、少し後に、分かったと笑って見せて、出て行った。  ――――ドアが閉まると、美樹ちゃんと二人きり。  んー。とんでもない空間だなあと思うのだけど。  ……これでよかった気がするオレが、居る。 「座ろ?」  立ったままというのもな、と思ってそう言うと、美樹ちゃんは少しドアから離れた席に腰かけた。あんまり聞かれたくないのかなと思って、オレも、美樹ちゃんの斜め前に腰かけて、美樹ちゃんの方を向いた。 「えっと……ごめんね、二人になりたいとか言って」 「別に。良いって、私、言ったし」 「……ありがと」  声、可愛いな。なんか軽くて、ふわふわしてて。今はちょっと、強張ってるけど、笑ってたら可愛いだろうなと思う。  髪の毛もさらさらだし、顔、ちっちゃくて、めちゃくちゃ可愛い。  ……大事に育てられてきたΩの女の子、って感じ。  ――――オレと結婚する前の、颯の彼女。  運命だっていうのは、オレがΩになってからの話だし。その前に颯はオレを運命なんて思ってなかったとしたら、美樹ちゃんと別れたのは何だったんだろ。  こんな可愛い子と付き合ってて――――。  なんか、オレとすれ違った時、匂いが、とか言ってたけど、正直、そんな曖昧な匂いなんかで、この子と別れる理由がよく分からない。  ……でも、それでも。とにかく颯は、オレを選んでくれて、一緒に居てくれてる。  そのことで、この子の、颯を好きだった気持ちが、途中でだめになっちゃったのかと思うと……恋なんて、うまくいかないことだってたくさんある、そういうものだとは思うんだけど、でも……。  んー。何をどう、聞けばいいんだろう。  ……やっぱり、これが一番、かな。 「推薦、どうしてしたのか聞いてもいい?」  そう聞いてみるけど、美樹ちゃんはちょっと視線を斜め下に向けたまま。  しばらく動かない。      ……すごくドキドキ、する。

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