137 / 205
第137話 二人で
昴がとっさに口にしたけど。
……バカだなと思う。オレも、自分のこと。
颯は言わないって言ってた。昴もそれなら辞退すればいいって言ってたし。
オレもそう思ってた。でも、顔を見たら。
聞いちゃってた。
……颯と話せなくなってたり。気まずくなってたり。
そんなくらいなら、思ってること話しちゃった方がいいのにって少し思ってたのが、とっさに出ちゃったのかも。
聞いて、違うって言うなら、もうそれでいいし。
本当にそうで認めるなら。そのことで颯と気まずいなら、話した方がいい。
颯に何も聞かずにオレが言っていいのかという疑問は、言った瞬間は消えてた。だから、それはバカだとは思うんだけど。
でも。
……うやむやにしないほうがいいんじゃないかと思う自分がいたから、もうこうなったら、しょうがない気がする。
「美樹ちゃんて、呼んでもいい? 孝紀も、呼び捨てでいい?」
「――――」
美樹ちゃんはオレを見て、ちょっと、む、としたけど。少し間をおいてから小さく頷いた。孝紀も美樹ちゃんを見てから、オレを見つめて頷く。
「少し、話したいんだけど、いい?」
聞くと、美樹ちゃんは孝紀を見上げて、孝紀も美樹ちゃんを見つめる。二人は少し視線を合わせていたけど、小さく頷き合ってから、オレを見て頷いた。
結局、今出たばかりの教室に、美樹ちゃんと孝紀も入れて、皆でいったん戻る。少し中に進んで、ドアが閉まったところで振り返って、美樹ちゃんを振り返って、少し顔を見合った。
「美樹ちゃんから、何か言いたいこと……ある?」
美樹ちゃんに、そう聞いたけど、しばらく無言。
何か言いたそうな口元なんだけれど、でも、言えないみたい。
そこで、ふと気付いた。
「あのさ、オレ、美樹ちゃんと二人で話したいかも……」
皆に言うと、入り口のところで止まってスマホをポケットから出していた昴は、オレを見て、苦笑した。
「颯は呼ばなくていい? どうしようかと思ってたんだけど」
「んと……よく考えたら、推薦されたのオレだし、オレが話してみてもいいのかなと思って。だから、颯、電話してくれてもいいけど、颯がいいなら、来なくてもいいかなって思う」
「あー……おっけ。分かった。孝紀、だよな? お前は、あの二人で話させること、オッケイ?」
昴が孝紀に聞くと、孝紀は美樹ちゃんに視線を向けた。
美樹ちゃんは少し見つめ返した後、少し唇を噛んで、そのまま頷いた。
「じゃあ、オレ達は外に出てる」
昴がそう言うと、孝紀と匠もゆっくり歩いて、部屋の外に出ていく。
「あ、昴」
「ん?」
「……颯がもし来ても、入れないで?」
「――――」
昴はオレを見て、少し後に、分かったと笑って見せて、出て行った。
――――ドアが閉まると、美樹ちゃんと二人きり。
んー。とんでもない空間だなあと思うのだけど。
……これでよかった気がするオレが、居る。
「座ろ?」
立ったままというのもな、と思ってそう言うと、美樹ちゃんは少しドアから離れた席に腰かけた。あんまり聞かれたくないのかなと思って、オレも、美樹ちゃんの斜め前に腰かけて、美樹ちゃんの方を向いた。
「えっと……ごめんね、二人になりたいとか言って」
「別に。良いって、私、言ったし」
「……ありがと」
声、可愛いな。なんか軽くて、ふわふわしてて。今はちょっと、強張ってるけど、笑ってたら可愛いだろうなと思う。
髪の毛もさらさらだし、顔、ちっちゃくて、めちゃくちゃ可愛い。
……大事に育てられてきたΩの女の子、って感じ。
――――オレと結婚する前の、颯の彼女。
運命だっていうのは、オレがΩになってからの話だし。その前に颯はオレを運命なんて思ってなかったとしたら、美樹ちゃんと別れたのは何だったんだろ。
こんな可愛い子と付き合ってて――――。
なんか、オレとすれ違った時、匂いが、とか言ってたけど、正直、そんな曖昧な匂いなんかで、この子と別れる理由がよく分からない。
……でも、それでも。とにかく颯は、オレを選んでくれて、一緒に居てくれてる。
そのことで、この子の、颯を好きだった気持ちが、途中でだめになっちゃったのかと思うと……恋なんて、うまくいかないことだってたくさんある、そういうものだとは思うんだけど、でも……。
んー。何をどう、聞けばいいんだろう。
……やっぱり、これが一番、かな。
「推薦、どうしてしたのか聞いてもいい?」
そう聞いてみるけど、美樹ちゃんはちょっと視線を斜め下に向けたまま。
しばらく動かない。
……すごくドキドキ、する。
ともだちにシェアしよう!