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第140話 颯に。
一通り泣いて泣き止んでから、美樹ちゃんは、うるうる涙目で。
「……ごめん、なさい」
そう言った。
……うわー。可愛い。
颯ってば、なんでこんな可愛い子泣かせてまで、オレ??
ちょっと全然分からないが。
……今更、美樹ちゃんが可愛いって言われても困るのだけど。
「うん。オレは別に。最初から、いいよ」
「……颯に謝らなきゃ……。別れさせようとかそんなの無理って分かってたけど……困ればいいって思ったのは……事実だから」
「――うん。分かった。待ってて?」
颯、来てくれてるのかな。オレは立ちあがって、教室のドアまで行くと、そっと開いた。少し離れた廊下の壁側に、颯と昴、孝紀と匠が居た。
最初は、どうだった? みたいな顔をしてたんだけど、オレを見た皆は、泣いてんな、こいつ。……みたいな、あきれ顔。というのか、面白そうにも見られて。
特に、颯は、ちょっと笑ってる。
「颯と話したいって」
「――――ん」
頷いた颯が、オレの目の前に立って、オレを見下ろす。頬に触れた颯の指が、ぷに、と頬をつまんだ。
「泣くなよ」
優しい声で言って、ふ、と微笑む。
もう。ドキドキして、ふわりと心が弾む。そんな俺の頭に、ぽふ、と手を置いてから。
「行ってくる」
ドアがしまって、静かになる。
「……んで。お前は何で、泣いてンの」
昴の呆れ顔。
「そーですよ。何で先輩が泣くんですか」
匠の苦笑を含んだ声と、呆れ顔。匠だけなぜか、壁に背をつけてしゃがみこんでる。疲れてる??と思いながら。
「んー。……まあ……なんか色々切なくて」
そう言って、はーとため息をついていたら。
「……美樹の話が、切なくてってこと?」
孝紀にまっすぐに見つめられて、そんな風に聞かれる。
「もうほんと、オレが泣くとか馬鹿みたいだけど……だってなんか……颯のこと好きな気持ちが、めちゃくちゃ分かるから……泣くつもりなんか無かったし、オレが泣いてるの、ほんと馬鹿みたいだったんだけど……」
オレが言うと、孝紀は、なんだかクスクス笑い出した。
「……今日お前に会えて、良かったかも」
「そう? ……あ、でも颯と話せてるから、よかったよね」
「颯より……お前で良かった気がする」
「そうかな?」
首を傾げてから、ふと、昴と目が合う。
「あ、ありがとね、昴。颯を呼んでくれて」
「つかそれ、オレに礼言ってください」
途中でなぜか匠が疲れたように口をはさんできた。
「何で、匠? つかお前って、何でそんな疲れてんの?」
「……神宮司さんに電話が繋がらないから、きっと今帰り道に居るから呼んで来いって、先輩に言われて」
「そうそう。結局、匠が走って行ってから、すぐ颯から電話かかってきてさ。だから匠に今度電話したのに、こいつ出ないから、結局下まで行って、上り始めた颯と会ったらしい」
「だってオレ走ってんだから電話気づかないし」
「おお。それはありがと」
そうなんだ、大学までの坂、結構きついのにごめんね、と匠に言っていると。
「つか、会ったはいいけど、坂上ってくるまでの、神宮司さんとの二人きりの空間の方がよっぽど疲れましたからね……!!」
「……あはは」
それは想像するとちょっと面白い。と、その時、静かにドアが開いた。
「話し終わった」
「え、もう?」
「別にそんな大したことじゃないし。終わったよ。――孝紀」
颯の視線を受けた孝紀が、軽く頷いて、教室に入っていく。今度はドアを閉めないで行ったから、孝紀が美樹ちゃんのすぐそばに立って、何かを話してるのが見える。
もう泣いてないな。
……颯と話す時は、泣かないでいられたんだ。良かった。
(2024/3/7)
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