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第141話 オレの心臓は。

 教室の中を見ながらほっとしていたら、颯の視線。目が合って、ちょっと固まって、言うべきと思ったことを先に言うことにした。 「あの、ごめんね。何もしないって言ってたのに、なんか会ったら聞いちゃって。……気まずくなるくらいなら、話しちゃえばいいのにって思ってたのが、ほんと咄嗟に出ちゃったみたいで……ほんと、ごめん。」 「いいよ。謝んなくて。さっき昴たちと話してたことも聞いた。確定してたなら、まあ分かるし」  くす、と笑いながら、颯はオレを見つめる。  手が伸びてきて、頭をくしゃくしゃ撫でられた。 「慧らしいし」 「……そう?」  らしい……考えなしなところかな?  咄嗟に浮かんだ言葉は、颯がなんかあんまり優しい顔してるから、出さなかった。と、そこへ、教室から出てきた二人。 「あの……。お騒がせ、しました……」  孝紀の影から出てきた美樹ちゃんがそう言って、頭を下げる。皆、ふわ、とした雰囲気。誰も責めてる感じじゃない雰囲気の中、颯が「じゃあ帰るか」と言った。  美樹ちゃんに、もう気にすんな、と颯が話しかけてる。美樹ちゃんが小さく頷いてる。そんなのを後ろから歩き出しながら見ていたら。いつの間にか隣にいた孝紀が「なあ、慧」と呼びかけてきた。 「ん??」  顔を見上げると。 「――――とにかく人に好かれて、人気者。明るくて、まっすぐ」 「え??」  思わず首を傾げると、孝紀はクスクス笑い出した。 「お前の推薦文。美樹、そんな感じのことを書いてた。全部は見せてくれなかったけど、ぱっと見えたのはそんなのだった」 「――――……そう、なの?」 「美樹、別に慧のこと、嫌いな訳じゃないから」 「……うん。ありがと」  そう言うと、孝紀はふ、と笑って、息をついた。 「でも、これで大分すっきりできたろうし。……そろそろ本気で、いこうかなーオレも」 「やっぱり、美樹ちゃんのこと、好きなの?」 「……やっぱりって」  孝紀はクスクス笑う。 「……美樹が颯に片思いしてる同じ分だけ、な?」  そんな風に言って微笑む孝紀を見て、「長いねー」と言ってしまった。 「長いよな。まあそれでも、颯と付き合った時は、諦めるつもりだったけど」 「……そうなんだ」  わー。なんか。……すげーな。  こいつもαなのに。自分のにしようとかじゃなくて、諦めるつもりだったんだ。と思うと。なんか。……それはそれで、ものすごい強い気持ちなんだろうなと……。 「なんか……オレ、応援してる。孝紀のこと」 「はは。サンキュ」  孝紀はオレを見て、楽しそうに笑う。 「オレ、知ってたんだよなー。中高の頃、颯が慧のこと、好きなんだろうなって」 「……そうなの? さっき、美樹ちゃんにも言われた」  そう言うと、へえ、と少し目を大きくして、それから、そうなんだ、と笑った。 「オレと美樹は颯とクラス一緒のこと多くてさ、ずっと見てたから。お前が颯のとこに来て騒いで帰るとさ。……なんか颯、すげー楽しそうで。お前がこっちに気づかなくて来ない時も、颯、お前のこと見てたし」 「えっそうなの???」  それは初耳。 「だから、結婚したって聞いた時も、遂にか、と思った」 「……オレの友達は信じてくれなかったよー??」 「だって、慧はそういう意味で好きじゃなかっただろ。慧の友達からしたら、そりゃびっくりだろうし。こっちの、気付いてない皆も、そりゃびっくりしてたって」 「……まあ。確かにそっか……」  ん、と頷いていると。 「――慧が颯のことをそういう意味では好きじゃなかったと思ってたから余計に、美樹は、悔しかったんだと思うけど」 「……そだね」 「でももう……多分、美紀も吹っ切る気がする」 「そっか。うん……」 「そしたらオレが、頑張る」 「うん」  ……頑張らなくても平気な気がするけど。  だってさっきの話の中にも、孝紀が孝紀がって。頼りにしてるの分かるし。今さっき、教室に孝紀が入っていった時も、すごく安心した顔してたし。  ……まあ変な期待を持たせたら悪いから言わないけど。 「とにかく応援してる」 「ありがと」  クスクス笑う孝紀。  ……こうして改めて見るとイイ男だな。優しいし。気持ち、強いし。すごく気の付く、良い奴だ。なんて思っていたら。 「お前らみたいに、めっちゃ好き同士になれたらいいけどな」 「……っっ」  は。恥ずかしいなもう!!!  真っ赤になったオレに可笑しそうに笑う孝紀。 「あ。……なあなあ、聞いてもいい??」 「ん?」 「颯がオレのこと好きそうって、どうして思ったの?」 「……聞きたい?」 「うん。だってオレ、そこ知らないから。楽しそうって……何か言ってた? オレのこと」 「そうだなぁ……」  と、言いかけた時。  少し前を颯と歩いていた美樹ちゃんが後ろを振り返った。 「孝紀?」  何で隣に居ないのかなと思ってるっぽい美樹ちゃんに、孝紀はクスッと笑った。 「行ってくる。その話、聞きたいだろうけど、また今度な」 「うん」  美樹ちゃん可愛いな。……そしてすぐ飛んでく孝紀。うーん。めっちゃ好きなの、美樹ちゃん知らないのかな。……って知ってるよなあ?? 知ってて一緒に居るんだから……それはもう。ふっきりさえしたらやっぱりそうなるのでは。 「慧?」  うーん、と考えていたら楽しくなってきたオレを見て、颯が呼びかけてくる。優しく笑っててくれて――――……どきっ、とする。オレの心臓は、いつも素直だ。  オレが見てない時も、オレを見ててくれた。とか。  ……颯は、自分で知ってるのかな。  意識してても無意識でも。  すごく嬉しいのに変わりはないけど。  ふふ、と笑いながら、颯の隣に並んだ。

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