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第142話 永遠の謎
坂を下りて、オレ達がマンションの方に曲がるところで、立ち止まった。
「じゃあ、またな」
颯がそう言うと、美樹ちゃんと孝紀が頷いた。
オレも、匠と昴に、ありがとね、と声をかけてから、美樹ちゃんと孝紀に視線を向けた。
「じゃね」
そう言うと、孝紀が、「さっきのはまた今度な」と笑うので、ん、と頷く。
「あの……」
「?」
孝紀と目線を合わせていたら、その隣から、美樹ちゃんの声。ふと見ると、あれ、オレを見てる。オレに話しかけたのか、と意外で、ん? と首を傾げるると。
「……慧くん。て、呼ぶ」
「え」
びっくり。「慧くん」? ……てか、呼ぶつもりが、あるんだ。ということにも、びっくりしていると、何だか周りに立ってた皆が、ふ、と柔らかい雰囲気で笑った気がした。
「だ、だって、あなたって変だし、美樹ちゃんて、呼んでくるし……っ」
なんだか、とっても焦った顔で、わーわー言ってる。照れ隠しの言い訳みたいで、やたら可愛い。
「うん。慧くんで」
頷いて、微笑んでしまう。
「改めて、よろしく。美樹ちゃん」
「――――……」
言うと、美樹ちゃんは少し止まって、こく、と頷いた。
「帰ろ、美樹」
明るい声で孝紀が言って、ぽんぽん、と美樹ちゃんの背中を叩いた。美樹ちゃんは、ん、と頷いて、皆も、駅の方に向かって足を一歩。
「じゃあねー」
手を振ると、皆も軽く挨拶しながら、歩いて行った。なんとなく、四人の姿を見送って、少し離れてから、颯を見上げた。
「……慧くん、ね」
ふ、と颯が笑う。
「ねー。……美樹ちゃんてさ。すごく、可愛くない?」
……はっ。しまった、つい言ってしまった。だから今更、美樹ちゃんが可愛いって言われても困るってば。でもなんかほんと、可愛いなあと……。
「美樹、モテるし」
「……あーそう、だよねぇ……」
だよなぁ。可愛いもんなぁ。
にしても、颯はなぜ、あの子が側に居たのに、オレ……。これは謎だな、永遠の謎だ。……だって、なんか、これは聞きたくはない。自虐過ぎて、颯には言いたくないし。聞いて、「そういえば美樹ってお前より可愛いな」……とかなっても困るし、うん。
「慧は、美樹のことが可愛いのか?」
「んー。うん。可愛いよねえ。すごく」
「……美樹みたいのが、タイプってこと?」
「んー。タイプ……そうだね、可愛いと思うけど…………ん??」
ちょっと考えていたオレは、ぱっと颯を見上げた。
すると、なんか、ちょっとムッとした颯の顔。
…………タイプ? 誰の?
「ん? 颯、どういう意味?」
「だから……あんな感じが好きってこと?」
「――――……」
「……好きって言われても、絶対渡さないけど」
……。
誰が誰を渡さないんだか、全然分からん。
「誰が誰を好きなの?」
「……慧が美樹を可愛いって言ってるから」
オレ達はもう歩き出してもいいのに、歩き出すこともなく、何だか二人そろって首を傾げながら、お互いを見つめ合う。
「んん? ……待って? 良く分かんない。 あんなに可愛いのに、何で颯は、美樹ちゃんを振ってまでオレなの??って、オレ思ってるんだけど……」
――――あ、しまった。永遠の謎になるはずだったのに。
数秒で聞いてしまった……。
颯、じー、とオレを見つめてくる。。
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