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第158話 カタコト
「だって取れないんですよ。完全に乾いてるし」
ごしごしごし。
「いだだ……ちょ、もー、痛いって……! 優しくやってよ」
「――――……」
匠は不意に黙って、ちょっと顔を退いた。
「……泣かないでくださいよ」
ものすごい嫌な顔をされて、オレは、もう! と膨らんだ。
「つか痛いんだってば、そんな擦んないでよ」
「だってなんか、早くとった方がいいと思って」
「……つか、もっと、こう、優しくできないの??」
ペンキの刷毛を持ったままなので、自分でやるとも言えず、文句しか言えないけど。
「優しく……」
すんごく眉が寄った匠に、オレが「もういいよ……後で自分で取るから」と言うと。
「ちゃんとやりますって……」
「もういいってば」
「なんか優しくできないとか思われンのやなんですけど」
「知らないよ、そんなのー! もういいってば、もー離してよー」
わーわーわめいている所に、電話に行ってた颯が戻ってきた。
「……どうした?」
一瞬固まった気がした場の空気に、首を傾げつつ、「匠の擦り方が乱暴で」と言うと、颯が近づいてきてオレの顔を見下ろした。
「顔のペンキ?」
「うん、そう」
「ふーん……」
そう呟いてから、颯が、匠に向けて手を差し出した。
「オレ、やるから」
「あ。はい……」
匠の手からウェットティッシュを受け取ると、「これ、慧の?」と、下にあるペットボトルの水を指さすので、うん、と答えた。
ウェットティッシュに水を垂らして濡らすと、オレの顎を少し押さえて、頬に触れる。途端に、ドキッと弾む心臓。現金だなぁ、オレ。
カッコいい、なら、匠も結構そうなのに。
……ドキドキするのは、颯が好きだから。
めちゃくちゃ優しい触れ方に、ほー、とただ颯を見つめていると。
「ん。取れた」
ふ、と微笑む颯に、「わーありがとう」と、めちゃくちゃ嬉しいオレ。
何やら隣で固まってる匠に、「匠も、もうちょっと、優しくする感じ覚えた方がいいよ……?」と言うと、匠は、何やらものすごい、ため息をついた。
「……はー」
そのまま、匠は、昴の横に座った。
苦笑してた昴が、ぽんぽん、と匠の肩を叩いてるけど。
何か、いつの間にかすごく仲良くなってる??
……あ、違うか、結構最初からかな?
「少し赤くなってる」
「あ、うん。まあ、平気」
擦られたからなーもー、と思いながら、颯を見あげてそう言うと。
「顔にペンキつけてるとか」
「ん?」
「可愛い」
「――――……」
え。
ここ、皆、居るけど。と思った瞬間。
ぽふ、と頭を撫でられる。
「――――……」
オレは、なんか、もう。反応できず。
「ちょっと運営行ってくる」
「え、あ、う、ん」
いって、らっしゃい。
片言みたいにそう言ってから、颯を見送る。
……なんか、周りが超静か。
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