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第159話 颯の変化

 あーもう……。  ……カッコよすぎなのではないだろうか、オレの番の方。  ぼー、と立ったまま見送ってると、颯がふと振り返って、なんか珍しく。  バイバイ、と手を振ってくれた。  ……バイバイされた。あんまり颯って、バイバイはしないんだよな。ちょっと手をあげるとかはあるんだけど。今のはちゃんとバイバイだった。  どうしよう、なんかすごい、嬉しい。  ぼー、としていると。 「……すごいもん、見た」  その声に、はっと気づく。  なんか、異様にオレの周りだけ静かだった一体の空気に、そこで改めて。  今言ったのは、颯の仲間の一人。  そっちを見ると。 「颯の方がべた惚れなんだって、聞いてはいたんだけど……」  ……え。そんなのどこから聞いたんだろ。  と、聞きたくなってるオレなのだけど、なんとなくそんな雰囲気ではない感じ。 「ほんとにそうなんだなって、驚いた」  口元に手を当てて、んー、と、頷いている。 「颯が、誰かを可愛いとか言うの、 聞いたことあるっけ?」  別の奴が、周りの皆に、これまた驚いた風で聞いてて、それに対する返答は「無い」と「無いかも」ばっかり。  そう、なんだぁ……。  特に颯の仲間の皆が、びっくりした顔、してる。  この空気を回収するにはどうしたら……。  そう思った瞬間。 「ていうか、颯って、慧の前ではいつもあんなだぞ」  昴が笑いながら言った。な、と匠を見ると。 「そーですよ、嫉妬丸出しの、まじ|怖《こわ》αですよ」  と、匠が何やら、ため息をつきつき、ぼやいている。 「お前、ほんと災難な?」  クックッと、昴が笑って言うと、周りの皆も、ははっと笑い出した。 「颯があんななの知ってるのに、慧に触るとか、勇気あんな、お前」  変に褒められて、はー、とため息の匠。 「だから、どうしようかなーて思ったんですよ……まあ、すぐ取れるかと思ったら、取れないし。先輩のせいですからね……」 「え。オレのせい……? つか、だってペンキが顔についてるの、颯が帰ってくるまでに取ってほしかっただけだし……」  そう言いながら、眉を寄せていると。 「まあオレも、あー、と思ったけど、すぐ取れればいっか、て思ったからな」  その言葉に、さっきの二人の、「まいっか」の意味を知る。 「颯を気にして、考えて、まいっかって言ったの?」 「そうですよ」  ほんとにもう……と匠が仏頂面。……イケメンが台無しだぞ。と心の中だけで言う。 「先輩、自覚した方がいいですよ、絶対あの人、超嫉妬深いですからね」  匠の言葉に、昴がニヤ、と笑って。 「お前は前科があるから、余計だろ」 「あれは謝ったじゃないですかー」 「すげー地雷だろ、あれは」 「……」  黙った匠が、はーと何度目かのため息をついて、「手伝います」と言ったのを見て、昴は可笑しそうに笑って、「誰か刷毛余ってる?」と聞いた。  そこからはもう、さっきまでと同じ雰囲気で、普通通り。    落ち着かないのは、オレの心ン中だけ。  ――――……颯がヤキモチ妬いてくれるのとか。  皆の前で、オレを、可愛いとか言ってくれちゃうのとか。  ……バイバイ、とかしてくれるのとか。  多分、オレと居ることで、なんか、変わってきてるところ、なんだと思う。  颯のもともと仲良かった皆の話を聞いてると、そう思う。  別に元々の颯も好きだから、変わって欲しいとかは無いけど。  そんな風な変化も。……すっごい大好き。 「よーし、頑張ろ~!」  でっかい声で言うと、「はーい」とか笑い声とか。  颯の友達とオレの友達と、良く分かんないけど、仲良くなった匠たち。    なんか、すげー。  楽しいな。

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