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第161話 ほめるとこしか

「にしても、何回も思ってるけど、慧は、Ωんなると同時に颯のものになって、ほんっと良かった」 「そう?」  なんかその言い方は気になるのだけれど、でも、言われたことは嬉しくて、ちょっと笑顔になってしまうと、昴は今度は苦笑。 「良かったな、運命の相手、颯で――――もし運命が颯じゃなくて、番になってなかったら、とか思うと、結構、めんどくさい」 「……めんどくさい???」  変なセリフ。 「そう。すげーめんどくさい」 「昴が?」 「そう。オレとか、健人とか誠とか、周りが」 「…………?」  何て返事しようかなと考えていると、昴は笑い出した。 「なんでもない。とにかく、颯と番になってくれて、ほんと良かった」 「……まあ、オレも、それはほんと良かったけど」  そう言うと、昴は、オレを見て笑ってたけど、ふと気付いたように、あ、と声を出した。 「そーいえばさ、慧」 「ん?」 「初めて好きって言った日から、どーなの?」 「え。何が?? どうって?」 「だから、そのままちゃんと好きとか言えてんの?」 「――――」  んーと……。心の中では、毎日延々言ってるんだけど。   でもあれ全部言ってたら、なんか、微妙な奴になるようなって位だからな。 「颯のあの感じだと、慧を好きだっていうのはすげー伝わってくるけど。慧は? ちゃんと言葉にしてんの?」 「…………」  うーん。うーん。うーーーーん……。  ものすごく考えた後、「聞かれたら言ってるような……」と返すと、昴はオレを見て、少し首を傾げた。 「やっぱり、あれか? 張り合いまくってた感じからのそれだと、なんか恥ずかしかったりすんの?」 「んー……なんだろね。意識してないけど、あんのかなあ……」 「絶対負けないって気合が、あの頃すごかったからな」  はは、と思い出し笑いをしてる昴。「でもね」とオレは昴を見つめる。 「今はそういうの言ったから負け、とかそんなのは思ってないよ」 「本気で?」 「ん、本気で」  オレが頷くと、昴も、そっかと頷く。 「颯も変わったみたいだけど……やっぱ、慧も変わったな」 「そう?」 「無理して頑張って負けないぞー、みたいなのは全然無い」 「んーまあ、無いよね。もともと大学に入ってからは思ってなかったけど、特に今は……颯、番になってから、ずっと優しいからさ……」 「ふーん」  ニヤニヤ笑ってオレを見る昴に、「あ、違う」とオレ。 「今思ったけど。番になる前も、颯は優しかったかも」 「ああ、確かに勝ち負けで騒いでたのは慧だな」  ははっと笑って、昴が、オレの背中をポンポンと叩く。 「んー。……だからやっぱり、颯に優しくしたいし。楽しいって思っててほしいし。まだこれから、ずーっと一緒に居るんだもんね。結婚したわけだしさ」  前方を歩いてる颯を見ながら、そんな風に言うと。   「へー。出会ってから何年も意地張ってきたのも、緩んできたな?」  まあ良かった、と昴は笑った。   「お前は、素直なのが一番、て気がする」 「オレはいつでも大体素直だけどねー?」  言いながら笑うと、昴は苦笑。 「まあ、そうだな。……それのせいで、まあ色々……慧の場合は、ほんとほめ殺しがあるからな」  何だかちょっと疲れたみたいに言う昴に、ん?と顔を見つめる。 「ほめ殺しって何?」 「……お前すぐ人をほめるしさ」 「うん。……まあ。いいとこあったら言うけど」 「いいとこなんだけどな、お前の」 「……うん??」 「まあ。颯だけ褒めてろってこと」 「えー。うーん……それはちょっと恥ずかしいけど」  颯の褒めるところかぁ、と考えていると。 「なあなあ、昴ー」 「ん?」 「颯ってさ、ほめるとこしかないってすごくない?」  なんだかしみじみそう言ったら、昴がちょっとうんざりした顔で、「あとでそれ颯に言っといてやる」と言うので、「それはやめて」と焦る。 「素直なんだろ? そのまま伝えとくから」  くくっ、と笑う昴に、「それとこれは違うー恥ずかしいじゃん!」と、ちょっと昴を掴んで焦って止めてると。 「あ」 「ん?」 「颯に見られた……」  べー、と舌をだして、嫌そうな顔の昴。  すぐ颯を見るけど、もうこっちは見てないし、食堂に入ってったけど。 「あとで弁解しとけ。何話してたかも言っとけ」 「えええー」  もー、昴のせいじゃんー!とオレは、むくれた。けど。 「オレ、絶対仲良すぎると思われてる気がする……」  なんか昴も、ぶつぶつ言ってる。

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