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第170話 何だこの空間

 かわいー、プロポーズしてるーと、周りに並んでる女の子たちがクスクス笑ってる。その他の人達も皆、並んでてすることもないから、なんか面白そうにこっちを見てる。  ……うん、なんか、列を和ませて来いっていう指令はクリアしてる。って、どうしよ。えーと。こんな可愛いちっちゃい子のプロポーズ、どうしたらいいんだ。オレ結婚してるんだよって言ったら、どうだろ?? でもなんかまわりの人達も、騒ぎそうだし。う、うーん……。指輪に気づいてくれたらいいけど、無理か。  大体にして、学生結婚自体、あんまりしてないもんね、左に指輪してるからって、結婚指輪だとは、思わないのかなあ。……だったら颯が指輪してても、特に大丈夫なのかな。うん。そういえばさっき、結婚してても応援させる感じとか言ってたけど。何なんだろう、あの、カッコいい感じは、ほんとに……。  もう、オレは、颯だったら、何してても、応援しますが。  ――――……また一瞬で色んなことを考えていると。   「あれ。慧?」  女の子の前でしゃがんだまま話していたオレのところに、颯が不思議そうな顔をして、やってきた。 「どうした?」 「あ、うん……ふふ」  颯を見上げて、説明しようとして笑ってしまったオレに、お母さんが。 「お兄さんが素敵だったから、今、うちの子が結婚を申し込んじゃってて」  クスクス笑いながら説明してくれると、周りもまた笑ってる。可愛いーとか、莉子ちゃんに対して、女の子たちが、また言ってる。でもその中に、カッコよくない? とかいう声も聞こえるので、颯のことも見てるんだろうなぁ、と思っていると。 「結婚、申し込まれてたの?」 「うん。まあ……」 「あ、いいんですよ、気にしないで、お店戻ってくださいね」  と、お母さんがオレに向かって言ってくれて、笑ってる。  すると、オレの目の前に居た莉子ちゃんが、ぷうう、と膨れてから。 「莉子は本気だもん、おっきくなったら……」  そう言った莉子ちゃん。  颯が不意に、オレの隣にしゃがんだ。  颯がしゃがむのとか。あんま見ない。  ……何、しゃがんだだけでカッコいいって何? と内心喜んでいると。  颯は、オレじゃなくて、莉子ちゃんにまっすぐ向かい合った。 「ごめんね、このお兄ちゃん、オレと結婚してるんだ」 「えっ」  そうなの? と莉子ちゃんは、謎にキラキラした顔で、オレと颯を見比べてくる。周りの人達も、えっ、てなってるのが、雰囲気で伝わってくる。 「ほら、指輪。お揃い」  颯がオレの左手を取って、莉子ちゃんに指輪を見せている。 「だから、ごめんね、諦めてくれるかな? お兄ちゃんも、このお兄ちゃんのことが、大好きだから」 「――――……」  オレは、もうほぼ息止まってるし。  周りの人達も、なんかさっきまでのほのぼのした雰囲気じゃないし。女の子たちとか、なんか、口元押さえてる。……叫びたいのかな、と、やけに冷静なオレが。いや、冷静になろうとしてるオレが、そっちの方に意識を逃がそうとしていると。  莉子ちゃんのお母さんは、あらあら、みたいな顔で、なんだか楽しそうに笑って。当の莉子ちゃんは。 「……お、お兄ちゃんも、カッコいいから……許してあげる……!」  と、颯にも見惚れながら、こくこく頷いた。  どっと笑う周りの人達。  と、カッコい――、尊いーー! とキャーキャー騒ぎだした、ギャラリー。  ……何だこの空間。  めっちゃ、恥ずかしい。 「ありがと」  よしよし、とカッコいい顔で優しく笑って、颯が莉子ちゃんを撫でると。  莉子ちゃんはもう、完全に、オチた。   「うんっ」  キラキラの笑顔で、颯とオレを見つめている。  と、その時。 「先輩ー、何騒いでんだって、昴先輩が……あ、莉子と母さん。……何してんの??」    そんな風に言いながら現れたのは、匠。 「…………え」  母さん??   しゃがんだまま、オレは、不思議そうな匠を、見上げるしかできなかった。

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