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第171話 喜ばれる?
「え、嘘。莉子ちゃん、匠の妹?」
「そうですよ。つか、何してんですか?? 何してんの、莉子」
匠が不思議そうに近づいてくる。
オレと颯は、しゃがんだまま顔を見合わせてから、オレは、莉子ちゃんに視線を流した。
「お兄ちゃん!」
わーい、と匠に抱き付く莉子ちゃん。ひょい、と慣れた動作で莉子ちゃんを抱っこしたのを見上げる。莉子ちゃんに合わせてしゃがんでる必要が無くなったので、颯とオレも立ち上がる。
「今、莉子がね、こちらのお兄さんにプロポーズしちゃって」
お母さんがクスクス笑いながら、そんな風に説明すると、匠は、えっ、と眉を顰めて、莉子ちゃんを見て、「そうなのか?」と聞く。
「うん。だって、すごく素敵だったから……」
きゅ、と眉を寄せて、しょんぼりな表情になってしまった莉子ちゃんは、小さい声で匠に言った。
「だめだった……? お兄ちゃん、怒ってる?」
うるる、と可愛さ満点の瞳で、きゅるんと、匠を見つめてる莉子ちゃん。
「怒ってはないけど……あー。うん……そっか」
匠は、何を思ったのか、くっ、と笑い出して、なんか莉子ちゃんに顔を寄せて、笑ってたけど。
「まあ、分かる。先輩、いいよな?」
そう言った匠に、ぱぁっと顔を明るくして、莉子ちゃんは満面の笑みを浮かべた。「うん!」と返して、うふふ、と笑ってる。
……こうして見ると、何か似てる気がする。
綺麗なお母さんとも似てるし。お母さん似の可愛い莉子ちゃんとも。
目元とか、口元が似てるのかな……。
「――――兄妹で、好み同じなんだな……」
颯がチラッと匠を見ながら、そう言うので、ん? とオレが颯を見上げた時。匠はなんか焦ったように。
「莉子のなんて冗談なんで本気にしないでくださいね」
「あー、お兄ちゃん、ひどい! 莉子は本気だったんだからー!」
「ちょっと黙ってようね、莉子、あとで聞くから」
「もーなんでー! でも、こっちのお兄ちゃんと結婚してるっていうから」
ぷぅぅ、と膨らんでそう言ってから、でも、すぐににっこり。
「でもこっちのお兄ちゃんもカッコいいから……」
莉子ちゃんが、颯を見てから、またオレを見て、うふふ、と嬉しそうに笑った。
「結婚してるって、莉子にわざわざ言ったんですか?」
と、匠に聞かれて、「あ、それは……」と颯を見上げると。
「なんか見たところ、本気っぽかったから、ちゃんと説明しといた」
ふ、とおかしそうに笑う颯。
「ね」
くす、と笑って、莉子ちゃんを見つめた颯。
珍しく、「ね」なんて言葉遣い。
……うわぁ。可愛くない? それ。
一人勝手に心バクバクしていると、それを向けられた莉子ちゃんはもっとバクバクしちゃったみたいで。
「うん」
なんだか颯を見つめたまま、ウルウルしてる。
んー、もう少ししたら、颯にプロポーズしそう。
そんな風に思って、すごく笑えてきてしまう。
そこへやってきた仲間の一人。
「ちょっとちょっと、早く戻れって、昴が怒ってるから!」
言われて、うわ、と匠が莉子ちゃんを下に降ろした。「とりあえず並んできて。オレ売ってるから」と言って、匠が戻っていく。
「あ、オレも一回戻る」
「手伝う」
「うん。じゃあね、莉子ちゃん」
莉子ちゃんとお母さん。……匠の妹ちゃんとお母さんかと思うと、なんか面白すぎる。ふ、と笑ってしまいながら、バイバイして離れる。
颯と並んで歩き出したのだけど。
……なんか。周りの視線が、すごい飛んでくる気が。
ふ、とその視線の方を向くと。
きゃー、と女の子たちが笑顔。
「……???」
首を傾げながら、ちょっとぺこりと挨拶すると。
颯が不意に、オレの肩に手をかけて、引き寄せた。瞬間、なんか、周りから、きゃーきゃーと静かな歓声。
「……?? 颯?」
肩に手をかけたまま、歩く颯を、なんとなく見上げると。
颯は、なんだかおもしろそうな顔をして、クスクス笑ってる。
「やっぱ、このままの方が、喜ばれる気がする」
「……?? 何が?」
颯は、オレを見つめて、後で話す、と悪戯っぽく笑った。
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