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第179話 引くとかないし。
心臓がドキドキしたまま、颯を見上げていると、颯が微笑んだ。というか、ちょっと苦笑っぽい、微笑み。
「……なんかオレ、ほんとおかしくなってる」
「?」
おかしく??
颯がおかしかったら、オレなんてほんとにおかしい気がするけど。
「慧が見られたり、可愛がられてんの見ると、オレの慧だからって、言いたくなるような……」
「え」
「――――……って、カッコ悪いよな……でも、正直、少し思う」
今度は完全に、苦笑する颯。オレが何て言っていいか迷っていると。
「……あ、ごめん。引いた?」
ちょっと困った顔をする颯に、胸がきゅんとする。ぎゅ、と首に手を回して抱き付く。
「引かない。ていうか、オレ、颯から引くとか、絶対無い」
ぎゅうう、と抱き着いてると、颯はクスクス笑いながら、ふんわりオレを抱き締めてくれる。背中に置かれた、手が、優しくて、胸が……ときめきすぎ。やばいってば。
「……つか、オレの方が、ずっと思ってる」
「ん? 何を?」
颯がオレの顔を見下ろして、くす、と優しい顔で笑う。
「オレのなのにそんな見ないでって。……オレは、結構マジで思ってる」
「――――……」
「……颯が、ちょっとでも、同じ風に思ってくれるなら、嬉しい」
「……へえ?」
少し黙ってから、颯はオレの頬に触れて、そのまま嬉しそうな顔で笑った。オレの頬に手を這わして、すり、と撫でる。
「言ってくれていいのに。……オレが言わなかったら、言わなかったろ?」
「……うん。そう、かも」
「まあ、そういうとこも可愛いんだけど」
くす、と笑って、颯がオレの頬にキスした。
「……てか、やっぱりオレも……ちょっとじゃないかも。引かれるかと思って、少しって言ったかも」
「あ、そうなの?」
「ん」
そっか。素直に言えないの、一緒かあ。
そっかぁ。
ふ、と顔が勝手に綻ぶ。そのまま、オレも、颯の頬にキスをする。すると、ぎゅ、と抱き締められて、髪の毛に颯が頬を寄せる。
「――――オレ、こんな感覚、人生初だから、すげー新鮮」
クスクス笑う颯の震動が、抱き締められてると伝わってきて、幸せ。
「うん。まあ、それはオレもかも」
見つめ合って、ふ、と視線が綻ぶ。
「なんか、颯と二人きりで補給できた。午後もがんばろ!」
「だな」
出よ出よ、と颯の手を引いて、外に出ようとしたら、くい、と引かれて、最後、とばかりに、頬に、ちゅ、とキスされた。
「ほんとはめちゃくちゃキスしたいけど……襲いたくなるから、ほっぺで我慢しとく」
「――――……」
ぼぼぼ。
そんな言葉だけでも、顔に熱が集まる。
わー。好きすぎて、沸騰しそう。
ぽわぽわと幸せ気分に浸りながら、人気のない校舎を出ると、またうわーっと人の波。そこにふと、聞こえてきた、宣伝の大きな声。
「三号館の大教室でお化け屋敷をやってまーす、めっちゃこわいからどうぞー!!」
えっ。お化け屋敷!
声の方を振り返ると、颯はオレを見つめて、ぷっと笑う。
「行きたい?」
「……得意ではないんだけど、好き。颯は?」
「どうだろ。あんまり入った記憶が無いけど」
「……行って良い?」
「いいよ」
クスクス笑う颯は余裕っぽくて。
行きたがってるオレの方が、すでにちょっとビクビクだけど。
じゃあお化け屋敷に行ってから、皆のところに帰ろうってことになった。
(2024/7/19)
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