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第183話 妄想。

「なるほど、そういうことか」 「そぅ。そういうこと」  結局あの後、皆で帰ろうってことになって、わいわい話して帰ったので、昴の超適当説明の意味を話せたのは、皆と駅で別れて、二人で歩き始めてからだった。   「慧はオレの部下になりたいのか?」  くす、と笑いながら、颯は繋いでるオレの手を、すり、と撫でる。 「いや……ほんとに部下になりたいかって言われると……でもさ、颯、絶対仕事できるでしょ。それを見てるのも楽しそうだし。きっとカッコいいだろうし」 「ふうん」  颯は、ふ、と視線を緩めながらオレを見つめる。 「……最後に挨拶してるの見てたら、そう思っただけなんだけどさ」 「まあ……それは、ありがと、かな?」  クスクス笑いながら颯がそう言う。 「部下っていうのはなんか違うかもだけど、一緒に働くのは、ありかも」 「ん?」 「オレが何をして働くかは、まだ分かんないけど。一緒に働いて、一緒に頑張るっていうのは、いいかもって、思うけど」  颯が言うことを、ふむふむ聞いてから、ははっと笑ってしまう。 「そっか、颯が社長になるなら、オレ、颯の秘書とかする? そしたらずーっと一緒に居られるし」 「秘書かぁ。……慧、そんなにオレと居たいって思ってくれてる?」 「ん??」  マンションについて、颯がエレベーターのボタンを押してから、クスクス笑いながら言うことに。 「だって、家でもずっと一緒なのに、オレの秘書になっちゃったら、オレとずっと行動するってことになるだろ。オレから解放してあげられる時間がないけど、いいの?」 「――――……」  言われてるのをしばらく想像しながら聞く。  部屋の階について、歩きながら、んー、と考える。 「今想像、してみると……」  言いながら、もしそうなった時の毎日を考える。  同じベッドで目覚めて、一緒に朝食べて、スーツに着替えて……颯、スーツ、絶対似合うー。カッコイイなあ。で、一緒に出社して、颯は、すっげー広い社長室のデスクに座って、隣には、秘書課の社員さんとかが待機してて、で、オレは、颯にずっと一緒にいる秘書さんになってて……。颯の予定を全部やりくりして、ちょっと休憩時間とか、作っちゃったりして、ちょっと社長室で、仲良ししてみちゃったりして。  ……ってあほか。オレ。仕事中にそんなことするわけないじゃんね、颯。仕事は真面目にやりそうー。うん、それも、カッコいいなぁ。  あ、でも昼ごはんとかは、一緒に食べられるように調整して。  で、打ち合わせとかも、一緒に出たり。接待とかの飲み会とかも、一緒に? それは後ろで待機かなあ?? そこらへんはちょっと分からない。とにかく、終わったら、また一緒に会社に戻って。でもって、仕事が終わったら、一緒に帰り支度をして。  社員が、颯のこと、カッコいいなあって憧れの目で見てるのを、なんとなく見ながら、一緒に退社して……。  ごはんは外か、家で一緒に作るか。一緒にに食べて。シャワー、一緒に浴びて。早かったら、一緒にコーヒーとか。お酒とか軽く飲んだりして。  一緒にベッドに入る。  …………っていうのを、なんだか、脳内で、一瞬で想像してしまったオレ。  時間にしたら数秒。  でも待てよ。これは、さすがに颯に飽きられる気がする。  居すぎじゃない?? オレは全然いいけど……。 「……やっぱり、仕事は別の方がいいかなあ?」    色々考えすぎて、オレは妄想世界でも超幸せだったけど、なんかこれはさすがに良くないかもしれないと思って、そう言ってみた。  部屋までの通路、歩きながら、颯は、おや? みたいな顔で、オレを見下ろす。   

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