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第184話 颯の妄想。
ドアを開けて、靴を脱いで上がる。鞄を片付けて、手を洗ってと一連の動作。
「颯、さっき、パスタか冷凍のピザかって言ってたけど、どっちにする?」
「慧はどっちがいい?」
「んー、いっぱい色々食べてたから、そこまで空いてないような……少なめに、パスタでいいかなあ。」
「じゃあパスタ作るから、サラダ作って」
「あ、うん」
オレが作るっていうとレタスちぎるだけになるから、颯に聞きながらつくろう。なんか最近、料理ちょっとだけ覚えてきた。このまま順調に覚えていったら、オレが料理できるようになる日もいつか来るかも。なんて、考えて嬉しくなりながら、りょうかーい、とキッチンに向かおうとしたのだけれど、ぱし、と手首を掴まれた。
「え?」
するすると引き寄せられて、リビングの壁に、とん、と背中を付けられた。
「……?」
目の前のカッコいい顔を見上げて、思わず首を傾げる。
「……颯?」
「――……慧」
「ん??」
「オレと、別に働きたいって結論は何で?」
「え?」
何だって???
颯と別に働くってなんだっけ。
ん? ……あ、さっきのオレの妄想の話?
「秘書とかの話?」
違う? 屋台の話?? 何か話してたっけ??
なんだか全然ピンとこない。颯が、なんかちょっと不満げなのも、オレはちょっと焦ってるので、頭が全然働かない。
「仕事は別の方がいいって、慧、言っただろ? 何で?」
「え。あ」
……やっぱりそっち!
…………ていうか、それでそんな不満げって。
……なんだかものすごく、可愛い気がしてしまうのだけど。
どうなんだろう、何が聞きたいのかによるけど……。
とりあえず真意を確かめるために、颯をまっすぐ見つめる。
「あのね、颯」
「ん」
「オレ、さっき……ぱーっと妄想したんだよね」
「……何を?」
聞かれて、えーーと、と何と言ったらいいかを考える。
「何と言うか……颯が社長で、オレが秘書だったら、こうかなーって。朝一緒に起きて、スーツの颯と一緒に出社して、仕事もずっと一緒で……社長室とかでも、ずっと一緒で……会食みたいなのも一緒で、会社に戻ったら、また仕事して、一緒に仕事終えて、またここに帰ってきて、一緒にシャワー浴びたりご飯、食べたり、それで、ベッドに一緒……って、何言ってんだって感じ、でしょ。……ていうか、今すごい、恥ずかしいんだけど、なんか、ぱぱーって、そういうの、色々妄想、しちゃって」
じっと颯に見つめられてて、途中からめちゃくちゃ恥ずかしくて、早口になっていくオレ。
「それで?」
「え? あ、……えー、それで妄想したんだけど、これはさすがに、颯と一緒に居すぎかなって思って……だって、今オレ、一緒にって、何回言った?? なんか、それはさすがに、飽きられるだろうと思ったんだよね」
「――――……」
「そう、だから、仕事は、別の方がいいかなあって、結論……なんだけど……」
それで颯は、何が言いたかったんだろう? と、見上げると。颯は、ちょっとまだ不満そう。
「颯……?」
「慧は、それでオレが、飽きると思ったんだ?」
「うん。……飽きるっていうか、なんかあの……居すぎって言われるかなって」
「――――ふうん」
…………あれ、なんかまたむぅ、とした。
……珍しい顔してる。かわい……って言ってる場合じゃない?
「颯?」
きゅ、と颯の腕に触れて、近づくと、そうなることが自然なことみたいに、顔が傾けられて、唇が触れてきた。
「――――……」
優しいキスが触れて、ちゅ、ちゅ、と音を立てる。
「ん……ふふ」
くすぐったい。
笑った唇に、颯の舌が差し込まれて、塞がれた。
「ん……っぅ」
深い深い、キス。
――――……気持ちいい。
「……多分似たようなこと、妄想してた」
「……ふ。 ん??」
「ていうか、オレはもっと……社長室で、慧に触れたりキスしたり……なんかそういうのもいいなあとかも、思った」
「……え――――……んっ……」
詳しく聞こうと思ったら、壁に押し付けられて、本格的にキスされて。
熱い舌が、オレの舌にめちゃくちゃ絡む。
……社長室で仲良しして……とか……!
オレも、考えたよー!! 一緒一緒……!
「……ん、ンっ……ふ…………っ」
言いたいのに、キスが、熱すぎて、全然喋れないうちに、頭の中、白くなっていく。かく、と足が抜けるけど、壁と颯に挟まれてて、何の問題もないみたい。
どんどん。熱、上がっていく。
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