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第190話 可愛い後輩
今日も屋台は大盛況。昨日言ってたけど、α率が高すぎるのも、理由にあるよな、きっと。
αもΩも希少だから、普段αなんかほとんど見ないって人も居るって、聞いたことがある。Ωなんてもっと希少だもんね。しかもオレ、変性……。
パーセントで言ったら、変性Ωって、どれくらいなんだろ。
全然居なかったりして。はは。おもしろ。オレ。
「ありがとうございましたー」
小学生くらいかな。小さい女の子がニコニコで買いに来たので、こちらもめちゃくちゃニコニコ笑顔でバイバイ、と手を振って送った。女の子は恥ずかしそうにしながら、小さくバイバイして離れていった。
すげー可愛いな。と思いつつ。
ちょっと一瞬空いたなーと思って息をつく。
「今のうちにストック作ってくるね」
店番を任せて、鉄板のところに。今まで焼いててくれた子に「代わるよー」と言って、交代した。横でフランクフルトを焼いてた匠と並ぶ。
「お疲れー」
「お疲れ様です。……ていうか、先輩、小さい女の子にニコニコしすぎです」
「え、何それ。人を変質者みたいに……」
「じゃなくて。―――ていうか、昨日、莉子にもプロポーズされてたでしょ」
「あっ。可愛かったねー、匠の妹ちゃん」
焼きそばをパックに詰めながら、クスクス笑ってしまう。
「昨日家でもずっと言ってましたよ。カッコよかったって、結婚してるなんてーって。でも、結婚してる人もカッコいいから、ゆるしてあげるーとか、超騒いでて。許すも何もないんですけど」
「あは。可愛すぎるね」
ゴムをかけて、やきそばを積みながら、昨日の莉子ちゃんを思い返していると。「匠くーん」という声が聞こえてきた。なんとなくオレも一緒に振り返ると、女の子達が屋台の裏側から手を振っていた。
「ああ。何?」
「匠くん、写真撮ろうよー」
「今、これ焼いてるから」
フランクフルトを見ながら匠がそう言うので、「いいよ、見とくから」とオレが引き受ける。匠は、お願いします、とだけ言って女子の方に歩いていった。フランクフルトをくるくるしつつ、焼きそばを詰める。
またちょっと並びだしたなぁ。
――まあ、盛況で何より。とりあえず、儲かったお金で、皆で打ち上げだし。楽しみー。
……ていうか、その前にコンテスト。打ち上げと一緒に、颯のコンテスト優勝と殿堂入りのお祝い会に出来たらいいなあ。もうほんと。神様頼んだ!!
なんて思いつつ、フランクフルトを回して、少しだけ振り返ると、匠を囲んで、女の子たちがきゃっきゃっと楽しそうに笑いながら写真を撮ってる。
「――――……」
そういえば、匠、なんか面白いからあんまり意識してなかったけど。
最初に匠の話を聞いたのは、めっちゃイケメンの一年が居るっていう話だったような。そっか、モテるのか、あいつ。
まあカッコいいはカッコいいもんな。莉子ちゃんも可愛かったし。ていうか、お母さん、めっちゃ若くて綺麗だし、上品な感じだった。やっぱαでもかなり上位っぽい。
…………なのに、なんであんな感じなんだろ。特に昴と居る時なんて、ほんと面白いし。
「すみません。ありがとうございました」
「あ。おかえり」
匠が戻ってきたので、位置をずれて、オレは焼きそばの方に戻る。
「なんか、エプロン姿レア、とか言われて」
「ああ、そうなんだ」
クスクス笑ってしまうけど。まあでも。モテるってことだよね?
「匠って、モテるの?」
オレがそう聞くと、匠はオレの方を見て、しばし黙る。
「――逆に聞くんですけど」
「うん? 何?」
なんだかとてつもなく嫌そうにしゃべるなあと思っていると。
「オレ、モテないと思ってます?」
「――――……」
その質問にはちょっと、固まって。
……えーーーっと。モテないと思ってます……? どういう意味?
モテるのかなって思って聞いたんだけど……??
「意味分かってないでしょ」
「あ、うん。どういう質問?」
「――――……先輩にとって、オレって、モテないような感じに見えるってことですか? って意味です」
「……ああ。えーと……? いや。モテるんだろうなって、今見てて、思ってたとこ」
「今思ったんですか? 写真撮ってたから?」
「うん。……えーと……?? なんか……ああ、分かった」
何で面白い感じか分かったかも。
「なんか匠って可愛いからかも。颯とか昴の言うことちゃんと聞いてる気がするし。オレにも、先輩先輩、みたいな感じで、来てくれるし。なんかこの屋台だって、一緒にやりたいって来てくれたじゃん?」
「――――……」
「だからなんか、イケメンだと思うのに、あんまりそう思ってなかったっていうのはあるかも。可愛いからだね」
なるほどね、分かった。
言いながら納得して、うんうん頷いていたら、匠がなんだか、ものすごく嫌そうな顔で、眉を寄せてオレを見つめた。
……そこまで嫌そうな顔しなくてよくない? 後輩なんだから、可愛いでいいじゃん。
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