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第189話 殿堂入り

 話しにきた内容は、今日追加で買い出しに行くかどうか。昨日思ってた以上に売れたから、足りなくなった材料があるかとか、そんな話だったんだけど。  ……カッコいいなあ。颯。  頭の端っこに、ずっとそれがある。  オレと二人でいる時の、甘い甘い感じの話し方とは違うんだけど。  ほんとカッコいい。  上司に居て欲しいなあ、なんて思うと、また颯が社長だったら、とかいうあの妄想がよみがえってくる。 「慧のとこは?」 「あ、うん。十一時くらいの時点でどれくらい出てるかで、買い出しに行くか決める。駅前のスーパーで買っちゃうから、大丈夫。昼すぎまではもつようにする」  まっすぐオレを見つめてる颯に、そう答えると、「分かった」と微笑んで、昴に視線を向ける。  ――――……運命の番、かぁ。  まだ良く分かってないらしいもんね。めったにないから、研究もそこまで進んでないって。……なんでそんなものがあるのかも分かんないし。  でも、お互いだけは、検査しなくても分かるってすごいよな。  しかもオレなんて、変性しての運命。  ……颯と番うために変性したのかな。そう想ってしまうくらいに。  オレは今、颯が好きだと思う。  目に映るだけで、嬉しいし。  声が聞こえるだけで、心が、ふわっと浮く。  オレを見てくれて、優しく笑ってくれたりすると、  甘い甘い、トキメキが。  なんか体中を走る、みたいな。  触れられて、抱き締められると、体中の血が、湧く。  大好きで。  カッコいいなあって、思ってしまうのも。  ……運命とか。関係あるのかな。 「売り切って、さっさと片付けて、後夜祭のイケメンコンテスト、だな」  孝紀が言うと、颯が苦笑した。 「そっちは気にしなくていいよ。こっち、最後まで楽しんで、終わったらって感じでいいし」 「無理でしょ。だって、慧は絶対最初から見たいだろうし。オレ達も見たい」  孝紀がオレを見るので、オレは、うんうん、と頷くと、隣で匠が笑った。 「そうですよ。オレは来年出るかもですから、参考に見たいし」 「――今年出ればよかったのにな?」  颯がニヤ、と笑うと、匠は肩を竦めて見せる。 「オレは、二位じゃなくて、一番になりたいんで」 「――はは。じゃあ、来年、オレが前回優勝者として祝いに行けるように頑張れよ」 「てか、優勝する気満々ですよね……」 「まあ頑張るつもりだから」  颯と昴の会話に首を傾げて、「何、花束って、どゆこと?」と聞くと。 「今年の優勝者が、来年の優勝者に花束渡すから」  颯がクスクス笑いながら説明してくれる。 「そうなんだ! あ、じゃあ颯に今年花束渡すのは誰なの?」 「まだオレがもらうか決まってないけど。もしオレが勝ったら、今回は運営の人なんじゃないかな。本当に優勝できたら、今年で殿堂入りするし」 「ふふ~そうなんだ。ていうか、颯が負ける姿が想像できないけど……」 「まあでも――最後のステージで、誰かがなにかすごいことしたら、最終投票で負けるかもだし」 「そっか。まあノリでどうなるか分かんないか……」  んーそっか、と考えて、でもやっぱり颯が負けるなんて想像できない。この人よりカッコいい人、居ますか?? いえ、居ません。自分の中で、即否定して、オレは颯を見上げた。 「って言っても、やっぱり殿堂入りしてほしいですか?」  匠がそう聞いてくるので、えー……としばし考えてから。 「うん、まあ。でも、オレの中では、ダントツで殿堂入りしてるからなぁ……もういいかなあ……」  考えながらぽそ、と呟いた時。「慧くーん! ちょっと相談ー!」と、焼きそば担当の子たちに呼ばれた。 「あ、はーい。颯、もう行って良い?」 「――良いけど。慧」 「ん?」  振り返って、颯を見上げると、ぽふ、と頭に手を乗せられた。  なんか、可笑しそうに笑ってる。 「?」  くしゃ、と撫でられて。 「オレの中でも殿堂入りしてるから」  くくっと、楽しそうに笑われて言われる。なんだか颯の瞳はキラキラして見える。あ。これ、ちょっと照れるかも……と思ったら、周りで、やれやれ、みたいな反応してる皆に余計に、今更ながらに恥ずかしくなりつつ。 「う、うん。じゃあ、行ってきますー」 「ん」  なんかオレ、全部のろけてるみたいな、とかさっき言われたけど、こういうことかな……なんて、思った。  

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