198 / 212

第196話 幸せなのだと。

 て言うかオレ今、旦那とか言ってしまった。……そんなことに気づいてちょっと恥ずかしい……。けど多分気にしてるのはオレだけだから、何も言わず過ごそうなんて思いながら、颯を見上げる。 「颯は何時から、準備しにいくの?」 「学祭が十六時迄で片付けの時間で。十六時半から十七時半まではステージで、バンドとかダンスの発表だって。オレは、十七時には着替えに行くよ」 「そっか。見送りに行く??」 「ん? 見送り?」 「着替えるとこまで。見送りに行っていい?」 「――いいよ」  少しの間見つめられて、ぷ、と笑われてしまう。 「何で笑うの」  むむ、と見上げると。 「いや? ……可愛くて」  クックッ、と笑ってる颯。 「いいよ――というか」 「?」  至近距離に颯が近づいてきて――ちゅ、と頬にキスした。  ちょうど、校舎の下の通路になってるところで、あまり人が居なかったから、だとは思うけど。 「見送りにきて?」  キスされてびっくりしてるオレを、超至近距離でじっと見つめて。  颯がそんな風に言う。――息、止まるってば。 「ん、行く」  こくこく頷いていると、後ろを歩いてた皆からの冷やかし。 「ちょっと暗くなるとすぐいちゃつくってどういうこと」 「そうだそうだー!」 「いくら新婚っても、いちゃつきすぎ」 「るせ。見るな」  颯がオレの首に手を掛けて、ぐい、と自分の胸元に。  ――ぅわ……。  皆が、はー、とため息をつくのが分かる。 「颯がこんな風に甘々になるとは思わなかったよなー」 「しかも相手が、慧ー」  あははーと、皆笑ってる。  それには答えず、颯はオレを見つめると、髪の毛をくしゃくしゃ撫でながらオレの背に触れて、皆の前を歩き出す。颯はなんだかすごく楽しそう。 「どーして慧は、そんな可愛いんだろうな」 「――……つか、オレって可愛い?」 「ん」  そーかなあと思うのだけれど、でも、颯の顔が。   優しくて楽しそうだから、それ以上は何も言わず、颯を見つめ返す。 「スーツ姿、楽しみにしてるね」 「――ん。まあ……カッコつけて出てくると思うけど。笑うなよ?」 「絶対笑わないよ」 「そう?」  颯はクスクス笑いながら、オレを見る。オレは、一度、うん、と頷いたけれど。 「――あ、でも颯は、カッコつけなくてもカッコいいから」 「ん?」 「普通にしてるだけで一番カッコいいと思うけど」 「――」  颯にじっと見つめられて、「ん?」とみあげた時。  後ろを歩いてた皆に。 「慧は、素で、颯をほめすぎだよなぁ」 「まあ、なんか、これは可愛いの、分かるかも」 「つか、颯のこと、めちゃくちゃ好きすぎだよなー、慧」  あっはっは。  皆がふざけた感じで言いながら、オレ達を通り過ぎて行く。 「もーほぼ売り切れてるから、そのまま二人で、デートしてきな」 「変なことすんなよー」 「マジでそれー!」  オレ達に反論の余地も与えず、皆が口々に言いながら、じゃあなー、と歩き去ってしまった。 「――むむ……」  何なの、あいつら。  むむむむ。  何だかちょっと恥ずかしくて、むー、と眉を顰めていると。  颯が、ぷ、と横で笑った。 「素で褒めまくりて……」  まあでも、そんな感じか、と颯は笑う。 「じゃあ、カッコつけないで、普通で出る」 「――ん。うん!」  それが一番、カッコいいと思うし。  ふふ。  楽しみすぎ。 「少しデートしよ、慧」  ぽん、と背に触れられて。  カッコよすぎる笑顔に、一瞬見惚れる。  ――多分ずっと、憧れてたんだと思う。颯に。昔から。  素直に、好きって言える今が。  意地張らないで、カッコいいって、言えちゃう今が。  オレは、すっげー幸せなのだと、思う。  うん、と頷いて。颯と一緒に、歩き出した。  

ともだちにシェアしよう!