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第209話 特別な人
「会場の皆さん、いよいよ、このコンテストも終わりに近づいてきました!」
「ここまでたくさんのトキメキをくださった、候補の皆さんに、いま一度、盛大な拍手と歓声をお願いします!」
司会者二人の声に、大きな拍手が巻き起こる。
「皆さんの魅力が、会場と、放送を見ている皆さんに、たくさん届いたと思います」
「そうですね、本当に素敵でした!」
「楽しくて名残惜しいのですが、これが最後のアピールポイントになります。候補の皆さんには、大切な人にむけて、メッセージをいただきたいと思います」
「このステージに立つまでにも、多くの人に支えられていると思います。その中でも、今日は『特別な人』への思いを伝えてもらいます」
「こちらに関しては、先ほど、衣装替えのタイミングでお伝えしました。もっと前からお知らせしなかったのは、時間が無い方が、本当の気持ちが出ると思ったからです」
「ご自分の心のままに、伝えて頂きたいと思います。準備はよろしいでしょうか?」
聞かれた四人は、それぞれ少し微笑んで、頷いている。
「家族、友人、恋人、恩師などなど、お相手はどなたでも――出場者の皆さんの想いを、皆さんにお聞きいただきたいと思います」
――颯、誰に言うんだろう。ドキドキ、する。
一人目桜井さんは、家族に向けてだった。今日までずっと支えてくれて、ありがとう、みたいな。二人目の石川さんは、友達に向けて。ここに推薦したのも友達みたいで、その人達へ、いつもありがとう、という、感謝の言葉だった。
それぞれ、考える時間が無かった割には、結構、エピソードを話したりして、割と長めで、感動的な感じ。おお、なんかすごいなぁと――拍手も、結構盛大にされていたし。
わぁ、これで、順位が決まっちゃうのか。って、そんなに差がつくものなんだろうか、感謝の言葉、って。
――同じような感じで言ってったら、皆そこそこ伸びて、順位は変わらないとかありそう……?
颯は――誰に、何て、言うんだろう。
前の二人は、家族と友達だったし。颯もそうかなぁ。……もしもし、万一、オレだったら嬉しいけど。いやでも、結婚相手にって、やめた方がいいよな。前の人達も、彼女とかには言ってないし。イケメンコンテストだもんな。うんうん。誰にでもいいな。颯が特別に思う人への気持ちなら、絶対に素敵に決まってる。楽しみだし、ドキドキだし。
「ご友人への、素敵なメッセージをありがとうございました。それでは、続きまして、神宮司 颯さん」
司会者が、マイクを颯に渡す。
……オレのドキドキは、もう最高潮。颯は、微笑んで、真ん中に立って、まっすぐに、前を向いた。
「それでは。思いを伝えたい「特別な人」はどなたですか?」
「――結婚相手、ですね」
颯が言った瞬間、なんだかまた、ざわついたような。そんな中、「それでは、お願いします」と司会者が一歩引いた。もうオレは、ぎゅ、と手を握り締めるしかできない。なんか、頭のなか、全部真っ白だ。
颯が、静かに、話し始める。
「オレが、結婚した人は――いつも元気で、泣いたり笑ったりすごく忙しくて。オレは冷めてるとこもあるし……あまり感情が表に出ないというか。出せないというか、それが自分の欠点だと思ってて……。
慧は、出会った時から、そういうのが全開みたいな――太陽みたいな感じで、すごいなってオレはずっと思ってて――」
そんな風に言う颯の視線は、まっすぐ、オレを見てる気がする。
「色々あって結婚できて、いつも一生懸命なのを側で見てると。なんか、人っていいなと思うというか……。
去年、ここに立っていた時より、オレは、人に優しくできるようになった気がするし、毎日いろんなことを感じて生きてる。それは、オレにとっては、すごいことで。だから、ずっと大切にしようって思ってる。――って感じ、です、かね?」
最後、照れたみたいな顔で、ちょっと笑って、口元を押さえた颯。
おー、なんて感嘆の声と、なんか、歓声と。
とにかく、ものすごく大騒ぎ。
――馬鹿だ、オレ。颯の言葉を聞いてて、そう思った。
そうだ。颯は、会った最初からって、言ってくれてた。
αだったら言わなかったって言ってたけど。オレ達みたいな家柄でα同士なんてほぼないし。あの頃のαのオレが受け入れる筈、無かった……と、颯は思ってたんだろう。――オレはもしかしたら。αの時でも、颯に心が揺れたかも、しれないけど。
――最初から、意識してたって、ずっと言ってくれてたのに。
何でだろう、なんて考えてて。
そんな風に、オレのこと、見ててくれたんだ。颯。
あんなうるさくしてたのに、うっとうしいとかじゃなくて……。
うる、と瞳に涙が浮かぶ。
まだ歓声がものすごい。
「最後だ。慧もなんか叫んどけよ」
ぐい、と腕を掴まれて、昴に言われる。
「え。あ、えと。じゃあ――」
すう、と息を吸って、言おうとした瞬間。
目の端で、昴が、し、と皆に言ったのが見えた。匠や誠たちもそんなかんじのこと、してるような。え? と思ったのだけど、止められず。
「颯、大好き!!」と叫び終えていた。
――突然、なぜなのか。タイミング、最悪、というのか。
昴たちの周りだけじゃなくて、なぜか、会場が、突然、シンとした中で。
オレの声だけが、めっちゃ響いて。
え!!と両手で口を覆って、思わず、ステージの颯を見た。颯は、ちょっと驚いた顔をしてて。
「――っ……?」
かぁぁぁっと真っ赤になったオレを見て。
――颯が。
ふは、と。
めちゃくちゃ、楽しそうに、笑い出して。口元を押さえた。
ナニコレ。なにこれ。
「あちら、奥様ですよね?」
「嘘みたいなタイミングで、声が響き渡ってましたね」
司会者二人が笑いながら言うと。
「――そう、ですね」
颯は、クックッと笑って――「可愛いでしょ」と、嬉しそうに、照れ臭そうな笑顔で、言った。
何その顔。
もう、キュンがひどすぎて、死ぬんだけど。
思った瞬間。いいぞー、みたいな声を皆が出し始めた。
オレが口を両手で押さえてる映像と、颯の嬉しそうな、照れ臭そうな笑顔が、モニターで映し出されてるし。
「わー、あれ恥ずかしいから消してー!!」
叫ぶけど、今度は周りがうるさすぎて、全然響かない。
もー何なのー。
「書きこみ、ヤバ……」
スマホを見ながら、昴が呆れたようにつぶやいた。
「――四人ともここまで、すげー頑張ってたのに。お前のミラクルで、颯が笑っただけで、これかよ」
クックッと笑い出す昴に、周りの皆も笑ってた。
で、その後。四人目の宮野も何か言ってて、もちろん皆は拍手とかしてたけど。
オレはもう何かさっきのが恥ずかしくて、何も聞こえないし。
その後。十分間の投票タイムになった。
颯に投票を済ませてから、オレはステージの後ろに向かった。
これで、颯が一位にならなかったら、オレは必要ないんだよな。
ドキドキしながら、待っていると、そこに実行委員の人達が駆け寄ってきた。
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