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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(4)

「お前がいて良かった、ディオ。俺ひとりでかの有名な《簒奪王》に対峙することを考えたら、さすがに足が動かない」 「……動かなくてよいのだが」 「ん?」 「……いや、何でもない」  進むことができなくなってここから引き返してしまえばいいという兄貴分の言葉は、吹きすさぶ冷たい夜風にかき消されアルフォンスの耳には届かなかった。  グロムアス国王の名はカインという。  まだ二十代という若い王だ。  名前よりも《簒奪王》という異名が大陸に知れ渡っているのは、彼の血塗られた経歴が由来している。 「欲しいものは何でも奪うという。王位も、領土も」  カイン王は元は低い身分から王国グロムアスの軍人に取り立てられたという。  そして昨年のこと。  国内の祭りの賑わいに乗じて先王を殺しクーデターを成功させたのだ。  野心に満ちた、だが有能な男というのは間違いあるまい。  クーデターは綿密に練られ、鮮やかな手腕であったという。  先王ただ一人を弑しただけで、たった一晩で片を付けたのだ。

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